はじめの一歩が重いことはよくありますが、私たちの学校では「1ミリでも踏み出す」ことの大切さを伝えています。みなさんの日常でも、「まずはやってみる」と「考えているだけ」の間には、大きな差があると感じることが多いのではないでしょうか。今回は、まさに「まずはやってみる」を実践し続けた東京校の卒業生、柴田さん(日世(株)所属)と前田さん(前田道路(株)所属)にチームを代表してインタビューしました。

画像の説明:左からこども食堂での取り組みの様子とプラントベースのソフトクリーム

廃棄されてしまうソフトクリーム試作品を活用した2つの取り組み

このチームでは、卒業課題として「ソフトクリームの試作品活用によるフードロス削減と新たな価値の創造」をテーマに掲げ、こども食堂での試作品提供と、バイオ重油の原料としての活用という2つののプロジェクトに取り組みました。

──チームで取り組むにあたり、「ソフトクリームの試作品活用」をテーマにした理由を教えてください

柴田さん: まず、「自社で抱える社会課題」を持ち寄ることからはじめ、開発本部でソフトクリームの製品開発を担当している私が「実は試作品ってたくさん廃棄されてしまう」と話したところ、これを活用できないかという流れでテーマが決まりました。

日世びわ湖工場では、廃液由来の産業廃棄物削減に取り組んでおり、3期生として受講した上司はこの廃棄物を肥料化するプロジェクトに携わっています。現在、のこり25%まで削減できた産業廃棄物のうち、4分の1(全体に対して約6%)が試作品による廃棄です。これは年間で約3万個分のソフトクリームに相当します。

日世びわ湖工場の廃液由来の産業廃棄物についてイメージ図

商品開発機能を持つ食品メーカーでは、試作品廃棄は共通の課題です。再利用するのは非常にハードルが高いと感じつつも、アイデアを絞り出す過程で、無理だろうと思いながらメンバーに話してみると、『それ絶対使えるでしょ!』という反応が返ってきました。内部と外部の常識は良い意味で違うことを実感し、この反応を受けてこの課題に取り組む決意をしました。

こども食堂が結んだ新たな製品開発の可能性

──製品開発に携わる柴田さんに詳しくお話を伺いたいと思います。まず、こども食堂で取り組もうと思ったきっかけを教えてください

こども食堂での取り組み

柴田さん: 試作品を不特定多数の方にお渡しすることにハードルを感じたため、限られた人数かつ小規模で実施できる場として、こども食堂が思い浮かびました。こども食堂について調べると、食事の提供にとどまらず、多世代交流やお子さんと地域の方を結ぶ場としての役割を担っていることがわかりました。そんな場にソフトクリームはふさわしいのではないかと感じ、選びました。そこから上司に相談しお知り合いの方を通じて、とあるこども食堂での実施が実現しました。

体験の様子

──そこから在学中に第一回目のイベントを実施されました。「まずはやってみよう」と思われた経緯や感想をお聞かせください

この取り組みを通じたつながりを大事にしたい気持ちと、まずここからスタートすればできるのではないか、と漠然と思いました。講義でも『まずはやってみろ』という話をよく聞き、まずやってみた方がいいなっていうのは、自分の中ですごく腑に落ちて、突破していきました。

ソフトクリームの製品開発をおこなう柴田さん


──チームのみなさんも、第一回目のイベントに参加したんですよね

前田さん: はい、東京から柴田さんの拠点である滋賀まで行きました!まず、NISSEI(日世)さんのソフトクリームは本当に美味しかったです。
イベント当日は運営の皆さんの協力もあって、想像以上に多くの子どもたちが集まり、取り組み自体のニーズを感じることができました。この活動がぜひ全国展開していくことを願っています。

柴田さん: 私は滋賀県のびわ湖工場を担当しているのですが、他にも埼玉、山梨、大阪に自社の製造拠点があります。すでに大阪では実施しており、埼玉や山梨でも実施したいという声が上がっています。

体験の様子

──2022年秋からスタートし、これまでに7回実施されたとのことですが、続けていく中でどのような変化がありましたか?

柴田さん: 正直、継続するにあたり、当初はボランティアの姿勢が強かったと思います。ただ、ボランティアのままでは継続性がないと感じ、現在では新商品として開発段階の試作品を提供し、お客様の声を製品開発に活かす場にもなりました。
例えば4回目のイベントでは、動物性の原料を使用していない『プラントベースソフト』と、コーンを作っている工場で新商品として開発中の『食べられるスプーン』をセットで提供しました。新商品を扱うマーケティング部や、スプーンを作る工場の開発メンバーも参加し直接ご意見、ご感想をいただきました。

プラントベースソフトと食べられるスプーン

印象的だったのは、ある親御さんから『乳アレルギーの子も食べられますか?』という質問があったことです。普段乳製品を使用している工場での製品なので、本品の同一製造ラインでは乳・卵を使用していることをご理解いただき、お客様の判断で食べていただきました。

アンケートでは、『娘はソフトクリームはずっと食べられないと諦めていたが、人生で初めて食べられ感動していました。味も食感もおいしくて衝撃でした。本当にありがとうございます!』というお言葉をいただきました。その方は、自分がソフトクリームが好きだけれど、娘さんが生まれてから一度も食べていないということを書いてらっしゃったことも印象的で、この取り組みを通じて、お客様の喜びに立ち会えたことが嬉しかったです。


この体験をもとに、5〜7回目のイベントでは、乳・卵アレルギーを持つお子様にも楽しんでいただけるよう、『乳・卵不使用のソフトクリーム』を開発し、試作品を提供しました。この取り組みを通じて、お客様から直接声をいただき、新製品の開発につながる貴重なきっかけを得ることができました。

当社では現在、EXPO2025大阪・関西万博に向けて「プラントベースソフトクリーム」の販売を検討しています。1970年の大阪万博では、会場内に200台のソフトクリームフリーザーを設置し、半年間で6400万人以上の来場者にソフトクリームを提供しました。この経験が、ソフトクリームを全国に広めるきっかけとなりました。EXPO2025でも、ソフトクリームを通じて新たなムーブメントを起こしたいと考えています。

──製造に携わる社員の方にとっても、とても嬉しい機会ですよね!
普段、開発に携わっていると、製造段階までは関わるものの、お客様が実際に製品を楽しむ場に立ち会うことはほとんどありません。しかし、今回、自分たちが作ったソフトクリームをお子様が喜んで食べるシーンを実際に見ることができ、自分たちの仕事が価値あるものであり、無駄ではないと実感できたとのコメントを、参加した社員からいただきました。他の社員も同様の感想を持っており、全体としてワークエンゲージメントの向上を感じることができました。

これからもこの取り組みを通常業務と並行しながら、多くの人を巻き込みつつ、地道に続けていきたいと思います。

卒業式での最終発表の様子

試作品からバイオ重油へ。ソフトクリーム廃棄物削減への挑戦

──次に廃棄されるソフトクリーム試作品のバイオ重油化について、前田道路で経営企画を担当されている前田さんにお話を伺います。まずこのアクションプランを立ち上げた背景を教えてください

前田道路で経営企画を担当している前田さん

前田さん: 講義で再生可能エネルギーの未来について考えるグループワークがあり、それをきっかけにエネルギー関連の課題を考えることになりました。ちょうどその時、私が所属する前田道路の関係会社では、舗装用のアスファルト合材をつくる際の燃料に、廃油と呼ばれる植物油の搾りかすや廃棄する牛乳の油分などを原料にした「バイオ重油」を使用する取り組みが発表されました。
詳しい資料をみると、原料に牛乳やバターといった油分も使えるという情報があり、「牛乳からできるなら、ソフトクリームミックスでもできるだろう!」と軽い気持ちでこのアイデアを始めたのがきっかけです。

再生可能エネルギーの未来について考えるきっかけとなった自然電力(株)磯野共同代表をお招きした講義の様子

その後、各社担当者同士で打ち合わせを行い、試験室でサンプルテストを実施した結果、油分の抽出に成功しました。さらに、担当者が日世びわ湖工場を訪れて、回収作業を実施しました。

──回収の成果はいかがでしたか?
前田さん: サンプルテストとは異なり、実際に工場で大きなロットを取り扱うと、うまく抽出できないという課題に直面しました。ソフトクリームには油分はありますが、大半は油以外の成分です。そういった影響もあり、なかなかうまくいかない部分もありました。結局、当時はソフトクリーム本体ではなく、分離層から油が抽出されたということでした。この経験を踏まえ、現在は様々な視点から製造方法の改善を検討しています。

柴田さん: 油分を抜いた後の容量や体積が少なかったんです。当時、1トン分の容器を用意していたのですが、実際に取れたのは100リットル程度というレベルでした。「課題は現場にある」、「やってみないと分からない」という言葉が講義で繰り返し出てきましたが、机上のプラン通りにはならないことを実感しました。

事務局: これまでお金をかけて廃棄していたものが、有価品としてエネルギー資源になる可能性があると思っています。これからの取り組みに期待したいです!

びわ湖工場にて廃液の分離層から油を抽出している様子

異業種との交流がもたらす新たな視点と学び

事務局: 今回お二人のお話を伺い、卒業課題に取り組む際のアプローチとして、まずチームを組んでから課題を設定する方法も有効だと感じました。貴重なお話をありがとうございました。

柴田さん: そのアプローチは本当に良いと思います。普段の仕事では同じ業界の方としか関わらないので、異業種との交流は非常に有意義です。例えば、食品業界だけで集まっていたら、試作品の発表は難しかったかもしれませんが、異業種の視点が加わることで、新しいアイデアや視点を得られると感じました。受講してみて、まずはチャレンジすることが大切だと実感しました。


前田さん: 同じ業界内だけでの交流だと、どうしてもマンネリ化してしまうことがありますが、異業種の方々との交流は非常に刺激的で、学ぶことが多かったです。受講生の皆さんには、限られた時間を有効に活用し、積極的に多くの方と交流することをお勧めします。

事務局: 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました!

第5期生(東京校)卒業式の集合写真