同じ社会課題をもった二人が、どのように卒業課題に取り組み、その後どんな活動をしているのか。
今回は、共に卒業課題に取り組まれた第3期東京校 村上仁宏さん (日世株式会社)と仙台校 相澤顕子さん(6次産業プロデューサー/SOFIX診断士)にインタビュー。〜生ゴミを資源化し豊かな土壌にする。循環型農業を通した循環社会構築モデル〜『Social Corporation Engine(ソーシャル・コーポレーション・エンジン)』とは?

東京校 村上さんの入校きっかけ

ソフトクリームの関連資材(コーンカップ・ミックス・機械類)の製造販売等を行う日世株式会社所属の村上さん。現在は、びわ湖工場(滋賀県犬上郡多賀町)にて社内エンジニアリング部門(技術保全課)リーダーとして活躍されています。
村上さんが入学当時より持っていた課題は、「ソフトクリーム製造時に発生する排水残渣物を有価物にする(廃棄物を堆肥物へ)」こと。課内のある社員が掲げた目標をきっかけに、チーム全体で解決しよう!という想いのもと受講されました。

ソーシャル・イノベーション・スクール第3期東京校 村上仁宏さん (日世株式会社)

仙台校 相澤さんの入校きっかけ

6次産業プロデューサー/SOFIX診断士として、食品残渣の堆肥化・土壌改良の研究を進める相澤さん。宮城県を中心に全国で農業支援を行うなかで、次の成長機会を掴みたい気持ちから入学を決意。仙台校会場でもあるINTILAQ東北イノベーションセンターを拠点とし、「再現性」と「収益性」のある有機農業を目指していらっしゃいます。

おふたりで取り組むことになったきっかけを教えてください。

相澤さん)循環型農業に関するテーマは持っていたものの、最終課題※1のチームづくりに悩んでいました。そこで、事務局の方より「仙台校以外の受講生にも声をかけてみては?」とアドバイスをいただき、その後すぐにSlack(スラック)※2で告知し、東京校の村上さんがすぐに連絡をくださいました。

村上さん)早く手を挙げないと誰かに取られる!と、すぐにご連絡しました。
大学時代、農学部で生物資源に関する研究をしていましたが、入社後なかなか環境への取り組みを実行に移せず、頭の片隅に置いたままになっていました。そんななか、土壌や堆肥に関する診断技術をもっている相澤さんとは、自分が取り組みたいテーマと通ずるものがあり、力強いパートナーになると思いました。

相澤さん)私自身も、実証事業で村上さんの所属される工場がある滋賀県に行っていたこともあり、繋がりを感じました。

ソーシャル・イノベーション・スクール第3期東京校 村上仁宏さん (日世株式会社)と仙台校 相澤顕子さん(6次産業プロデューサー/SOFIX診断士)

※1 最終課題について
社会課題をイノベーティブな手法で解決するビジネスプラン(卒業課題)は、卒業時にグループ、または個人で提出をして頂いています。課題をすでに持っている受講生が呼びかけて、それぞれの強みや環境を活かしたグループ形成をするチームもあれば、個人の課題をすでに持っている方が個人でプレゼンを行う場合もあります。
※2 Slackの活用
SISでは、受講生同士のオンラインコミュニケーションツールとしてSlack(スラック)を活用しています。

オンラインでやりとりを行うなかで苦労したことはありましたか?

村上さん)本来ならストレスフルな作業になるかと思いますが、ストレスをまったく感じませんでした。連絡は、Slackでほぼ毎日取り合い、卒業発表で使用するスライドは、Googleスライドの同時編集機能を使って作りました。
課題意識や進め方が一緒だったので、とてもスムーズにできたと思います。

相澤さん)課題発表に際し、気軽に、遠慮なく意思疎通ができたことが楽しかったです。また卒業課題発表をする仙台校卒業式のときには、村上さんが滋賀から仙台まで来てくださったことに感動しました。

村上さん)はい。仙台まで足を運ぶくらい真摯に取り組みました!

INTILAQ 東北イノベーションセンターで行われた第3期 仙台校卒業式の様子

卒業課題内容について教えください。

村上さん)私たちは、日本のゴミ焼却率が先進国のなかでも際立って高いこと※、生ゴミを燃えるゴミとして焼却している課題に着目し、生ゴミの分別資源化(堆肥化・飼料化)を行い地域資源として利用する『Social Corporation Engine(ソーシャル・コーポレーション・エンジン)』という仕組みを提案しました。 

相澤さん)日本で生ゴミの資源化を行なっている地域は、一部自治体に留まっています。ゴミの量を減らす活動ももちろん行いますが、生活をするなかで、どうしても生ゴミは無くなりません。だからこそ資源化(堆肥化・飼料化)し、地域内での循環型農業として活用するという仕組みです。
生ゴミの資源化は、農家さんにとってもメリットがあり、微生物の分解から堆肥化させた生ゴミ資源は、窒素を多く含み良質な堆肥となります。化学肥料の輸入依存や合成農薬使用による土壌品質の低下など、農家さんが抱えていた課題解決の一助にもなります。

※日本国内ではごみの焼却率は約80%で、OECD全体平均の約4倍と言われている。リサイクル率の高い国の多くでは、生ゴミの分別資源化が進んでいるという。

卒業課題発表を踏まえて、お二人のその後の活動をお教えください。

村上さん(日世株式会社)「工場内で発生する残渣物を有価物にする(廃棄物を堆肥物へ)」を実行

産業廃棄物としてお金をかけて業者に処理依頼していた60tもの残渣物を、有価物(肥料)として地域農家さんに活用してもらい、地域循環型農業のサイクルを作り出す仕組みを作りました。

また肥料の受け渡しは、遠方の中間業者を使わずに、地域農家さんに直接びわ湖工場に来ていただくことで、輸送コストの削減・二酸化炭素排出の軽減にも結びつきました。なにより、NPO法人や行政、地域環境活動家の方や農家さんと直接お会いできることで、地域の繋がりを強く持てるようになりました
サンプリング・成分分析・肥料としての生育調査からスタートし循環型農業に参画できた次は、自分たちの事業が地産農業に貢献していることを肌で感じてもらうことです。そこで、全社員へ私たちの肥料をもとに作られた農家さんのお米やポン菓子を配布する取り組みを行いました


取り組みの周知や、実績づくりという点で考えることは多くありましたが、課員全員で取り組み、”社会課題をビジネスの力で解決できる”ことを実感できました。今後は、びわ湖工場以外の地域でも実施し、海外エリアでも通用するモデルをつくっていきたいと思います。また、食品会社同士の繋がりでも広げていきたいです。

相澤さん(6次産業プロデューサー/SOFIX診断士)「日本での生ゴミ分別資源化の普及 〜家庭生ゴミ回収地の増加へ〜 」

現在は、仙台市が取り組む乾燥生ゴミ事業を普及すべく、土壌改良の研究結果に基づいたデータ提供を継続的に行なっています。
また、乾燥生ゴミの資源化普及のために、”回収地”の増加にも努めています。具体的には、効果的な回収場所としてスーパーマーケットが良いという仮説を立て、『お買い物場所や頻度』に関するアンケートを全国から100件以上集めました。

受講生同士のオンラインコミュニケーションツールSlack(スラック)でのアナウンス模様を一部抜粋

導入までの道のりは長いですが、担当者さまへ提案もできたので、今後も情報提供を続け、全国展開できるモデル構築を行なっていきたいと思います。

Facebookでもみなさまにアンケートのご協力をお願いした際の模様

6ヶ月の講義を経て感じたことを教えてください

村上さん)今まで一歩前進したかったが、抑制している自分がいるなかで、後ろから背中を叩いてもらったように前進できました
このプロジェクトが遂行できたのも、相澤さんと一緒に課題に取り組めたこと、そして、一緒に取り組んでくれた部下のおかげです。私が受講させてもらったことで、講義を噛み砕いて課内に共有し、みんなで動ける環境づくりができたかなと思います。
また、「社会貢献やボランティアってなんだ」と思っていたが、自分のモチベーションに繋がることに気づきました。実際やったことで自分の気持ちが晴れる瞬間や、心の安らぎを得ました

相澤さん)チームビルディングの難しさをグループワークで感じながらも、多様な受講生と地域問わず出会えたことが刺激になりました
これからも「少しでも良い未来にして子供たちに渡したい。」想いのもとに、少しでもいい未来にする行動に、母親でもある私が関わっていられたらいいなと思っています。

【事務局コメント】
終始和やかな雰囲気だったインタビューでしたが、二人が実際に会ったのは仙台校卒業式の一度だけ。
中間発表を経てブラッシュアップされた卒業課題、そして卒業後、それぞれのフィールドでプラン実行ができたのは、同じ志をもった仲間と出会いと、お互いの”得意”を伸ばしあえたからこそだと思います。「生ゴミ=回収」が当たり前の社会になること。そして、小さな地域から、同じ社会課題を持った世界へと展開していく、お二人の活動をこれからも応援しています!