広島のソウルフードといえば、甘いソースにキャベツがたっぷり入った『お好み焼』!今回は、そのお好み焼を作る際にどうしても捨てられてしまう「キャベツの芯」に着目した広島校卒業生の安永さん(オタフクソース(株)所属)と味元(みもと)さん(広島テレビ放送(株)所属)にインタビュー。
このプロジェクトには、食品ロスをなくすことはもちろん、減少傾向にあるお好み焼店の活性化や、栄養バランスの取れたお好み焼をもっと多くの方に楽しんでもらいたいという想いが込められています。
キャベツの芯の甘みを活かした、お好み焼と一緒に楽しめる飲料品開発の裏側や、チームで取り組むことの良さ、そして今後の展望について詳しく伺いました。

お好み焼き店にて笑顔でキャベツをもつ安永さんと味元さん
画像の説明:鉄板のある店内にて左から味元さん、安永さん

──おふたりがこの課題に取り組もうと思ったきっかけを教えてください
安永さん)私は広島の調味料会社、オタフクソースで海外営業を担当しています。受講当初から、自社事業とソーシャル・イノベーションを掛け合わせた取り組みを卒業課題として挑戦したいと考えていました。そんな中、グループワークで味元さんと一緒になり、彼の物事の捉え方や、今後この取り組みが成長した際に一緒に何かできる可能性を感じて、お声をかけました。

味元さん)私は現在、編成戦略部で会社全体のブランディング事業を手掛けています。安永さんの人柄はもちろんのこと、SISの学びを通じて、製品を世の中に送り出す過程に関わることの面白さを感じ、一緒に取り組むことにしました。

無駄になっているものはありませんか。ヒアリングから課題を抽出

──課題を見つけた経緯を教えてください
安永さん)
お好み焼は広島県人の誇りでありソウルフードです。その上、タンパク質、脂質、炭水化物といった栄養バランスがよく取れるメニューです。一枚あたりに含まれるキャベツの量は大人の手で山盛り一掴み程度で、約150gにもなります。
しかし、自社の調査結果によると、お好み焼店に訪れる人々は、お好み焼を野菜や栄養バランスの取れる一品として認識せずに食べていることがわかりました。また、全国的に「お好み焼、焼そば、たこ焼」の店舗数が減少傾向にあることも判明しました。広島県内のお好み焼店の数は、コンビニの数とほぼ同じですが、これらの店舗も同様の課題に直面しています。

味元さん)まず、個人経営のお好み焼店に調理する上で「無駄になっているものはないか」とヒアリングを重ねました。すると、使用量の多いキャベツの芯が廃棄され、食品ロスになっていることに気づきました。キャベツの芯が廃棄される理由は、「葉」部分よりも硬く、火の通り方が均一にならないことや、匂いがあるためだということが分かりました。

安永さん)そこで改めて、広島県内のお好み焼店でどの程度キャベツの芯が廃棄されているのか試算したところ、約13トン/月(※)にも及ぶことが予測されました。
これは勿体無い!しかも、キャベツの芯部は葉部と比較して全体的に栄養素が豊富で、特にカリウムや食物繊維が多く含まれています。
これらの点を踏まえ、キャベツの芯を活用した栄養豊富な製品づくりを行い、お好み焼が栄養のある一品であることを訴求しようと考えました。
最終的にはこのプロジェクトを通じて、お好み焼店への来店促進や売上アップの起爆剤となり、店舗数減少の抑止力になることを目指しています。

※キャベツ1玉1200g、廃棄率15%で計測。県内店舗数、お好み焼の1枚当たりのキャベツ使用量、1日の提供枚数、月の営業日で算出。

写真右)実際にお店で捨てられてしまうキャベツの芯部分、ギリギリまで綺麗に使っている

第一ステップは「芯」の回収方法

──課題の抽出後、まず取り組んだことはなんでしょうか

安永さん)まず、個人経営の多いお好み焼業態の中で、どのようにキャベツの芯を回収するかを考えました。キャベツの芯を回収するためだけに運搬コストをかけるのは環境にも経済的にも良くありません。そこで、卒業課題提出時には、おしぼり業者によるおしぼり回収時にあわせてキャベツの芯を回収してもらうスキームを考えました。

その上で課題となったのは、冷蔵保存場所の確保と回収サイクルです。店舗によって保管方法にばらつきが生じることや、お店側にそれ相応のメリットがないとこの回収は成立しません。その後、卒業後も味元さんと共に個人経営のお好み焼店に伺い、通常の取扱いや冷凍庫への保管について聞き回りましたが、管理や回収サイクルの問題で、やはり難しいという結論に至りました。

そこで改めて検討した結果、日頃から繋がりのある原料メーカー様からの紹介で、スーパーで販売するお好み焼用のカットキャベツを納品しているメーカー様をご紹介いただきました。ここではキャベツの芯が毎日大量に出ており、回収も一度で済むため、まずはこの工場のロスから解決し、製品開発を進めることが現実的となりました。

画像の説明:カットキャベツ製造メーカーででた芯

キャベツの栄養素を訴求できるアップサイクル製品の開発

味元さん)回収方法と同時に進めたのが、キャベツの栄養素を訴求できるアップサイクル製品の開発です。このプロジェクトには、食品ロスをなくすことはもちろん、減少傾向にあるお好み焼店の活性化や、栄養バランスの取れたお好み焼をもっと多くの方に楽しんでもらいたいという思いが込められています。そう考えたときに、お好み焼店で一緒に召し上がっていただけるものがよいと考えました。
そうした中、ソフトドリンクや低アルコール飲料の企画開発・製造を行う宝積(ほうしゃく)飲料株式会社がこの取り組みについて非常に前向きに捉えてくださいました。飲料として製品化するためには、キャベツの芯を液体に溶解しやすい状態に加工することが重要であると判明し、今後のキャベツの芯の加工方法や具体的な製品化について検討することになりました。

安永さん)その後も、宝積飲料の担当者さんが熱意を持って協力してくださり、現在は一緒に開発を進めています。飲料にする場合、固形物が混ざっていると製造できないため、まずは粉砕や抽出方法を試みましたが、うまくいきませんでした。次に、オタフクソースの社員も巻き込み、自社で取り組み実績のある酵素分解技術を用いてみましたが、これも成功しませんでした。この飲料として使える状態に持っていく工程に多くの時間をかけて打ち合わせや開発を重ねました。

最終的には、端材にしたキャベツをペースト状にし、そこから抽出液を採る方法を採用するメーカーに巡り合い、ようやく原料として使用できる状態にまで至りました。

画像の説明:キャベツの芯を抽出液にした状態

──どんな味になりそうですか
安永さん)まさに現在進行形で、味に関する打ち合わせを自社の開発担当者や、SISを受講したオタフクソースのマーケティング部 共創課のメンバーも巻き込んで行っています。先日は、実際に販売した際に取引していただく可能性の高い、某有名スーパーマーケットの食料品担当バイヤーさんに味見をしてもらいました。そこでいただいた意見の中で、まず改善したいと思ったのは、キャベツの芯がもつムレ臭が飲料にもでているという点です。そのため、炭酸を入れて後味をすっきりさせたり、野菜や酢を入れることで全体の味のバランスをとる改良をしています。

この飲料は、おいしさはもちろんのこと、お好み焼店にあまり行かない方にもお好み焼に興味を持っていただけるような製品にしたいと考えています。まだまだ開発は続きます。

宝積飲料様とオタフクソース開発メンバー計3名での打ち合わせ
画像の説明:宝積飲料担当とオタフクソース開発担当との打ち合わせ

味元さん)飲料の開発段階に入ったので、そこはオタフクソースのプロフェッショナルな開発チームに託しています。時々進捗を聞きますが、本当に真摯に取り組んでおり、この製品がアルコールの割り材になり、お好み焼と一緒にお客さんが注文する仕組みを作ることも考えられます。本来の目的である個人経営のお好み焼屋さんの来店促進になる製品づくりを大切にしていることがうかがえます。
さまざまな製造過程を経て、単価がどうなるのかによりますが、流通ルートを確保し、お店で提供する製品にするのか、広島を代表するお土産品にするのかを現実に落とし込んでいきたいと思います。
私は、製造のプロである安永さんとオタフクソースに対して、一番身近な消費者として、どのような形であれば手に取ってもらえる製品になるのか、広島を代表する製品になるのかをサポートしていきたいと思います。

画像の説明:これまでにSISを受講したことのある社員も交えてのミーティング

販売に向けて。お好み焼店で乾杯するその日まで

──販売はいつ頃を予定していますか
安永さん)販売は1年以内を目指しています。それまでに製品のクオリティを向上させ、サンプリング調査を重ねていく予定です。また、単に製品を販売するだけでなく、減少傾向にあるお好み焼店の活性化や、栄養バランスの取れたお好み焼をより多くの方に楽しんでもらうためのさまざまな企画も進めていきます。多くの人やものを巻き込んで取り組んでいきたいと思います。

──改めてこのプロジェクトに対する意気込みをお願いします!

味元さん)
持続可能な社会を考える際、「食」をベースにしながら社会を考えていくことはとても大切だと思っています。たとえば、子どもたちにフードロスについて考えてもらうとき、異国の話よりも広島でよく食べられるお好み焼や今回開発している飲料を通じて、「こうやってフードロスを減らしているんだよ」と説明する方が、身近に感じてもらいやすいと思います。このような視点からも、このプロジェクトを最後まで形にしていきたいと思います。

安永さん)今では通常業務に加えて、新規事業の部署メンバーも巻き込み、一緒に進めています。これまでSISを受講した上司や同僚も非常に共感してくれており、会社のサポートを強く感じています。
今回のプロジェクトは、広島のメーカーが広島の風土と食材を活かして「広島の課題を解決したい」という思いで取り組んでいます。私たちだけでなく、こうした活動が地方の活性化にもつながると考えています。これらの活動を通じて、多くの方が身近な問題として捉え、SDGsやソーシャル・イノベーションを通じて解決策を考えるきっかけになれば嬉しいです。まずは製品化に向けて、開発を進めていきます!

SISを受講して

──SISを受講した感想をお聞かせください
安永さん)一番印象に残っているのは、「(社会課題解決であっても)継続していくためには儲けられないといけない」という言葉で、すごく勉強になりました。SISで学んだことを実際に会社の取り組みとして落とし込もうとした際、製品化に向けて話し合わなければならないことがたくさんあり、今後も多くの関連企業と連携していく必要があります。卒業課題発表を経て、ここまで実行に移してみると、SISでの学びがどんどん繋がっていることを実感しています。会社から声をかけてもらい、SISを受講できたことは、非常に良い機会でした。

卒業課題中間発表の時の様子。講評を踏まえ、その後の課題提出までに内容に磨きがかかった


味元さん)半年間のカリキュラムのバランスがすごく良かったと思います。前半では講師の方々からの話をたくさん聞いて、それぞれがすごく刺激になりました。その後、後半では実践的なチームディスカッションに移っていく。このバランスが本当に良かったと思います。
どちらか一方だけだったら、学びは半減してしまったかもしれません。前半で触発を受け、自分ならどうするだろうかとぼんやり考えるだけではなく、後半ではそれを形にしなければならないというプレッシャーの中で、普段使っていない脳みそをしっかり使うことができるカリキュラムは素晴らしかったです。
私は今回、個人でSISを見つけて受講しましたが、オタフクソースさんのように会社として社会課題の解決方法が形になっていく事例が増えることも素晴らしいことだと思います。こういった時代ですので、企業、個人問わず、より多くの方に受講してもらい、何かを考えるきっかけになるだけでも大きな意味があると思います。そう思わせてくれる半年間でした。

広島校での開催時、集合写真