福岡市を中心に4万5千戸以上の賃貸物件を管理する創立73年の総合不動産コンサルティング企業 三好不動産より、福岡校にてご受講いただいた第5期生 樋口さん、第7期生 芝さん、津曲さん、岡松さん、松江さんにインタビュー。
今回は、卒業課題として取り組まれた「廃棄シリンダー錠の再生モデル」と「アースプロジェクト福岡を通じた共創事業」について詳しく伺いました。

画像説明:左の写真より廃棄シリンダー錠の利活用での調査風景とアースプロジェクト福岡活動時の集合写真

役目を終えたシリンダー錠を利活用する

──チームを代表し、第7期生 芝さん、岡松さんにお話を伺います。卒業課題で「廃棄シリンダー錠」に着目した理由をお教えください
当社では賃貸仲介業務を通じて、年間約5,000件の入退去手続きを行っています。その際に必ずと言っていいほど行う業務が「シリンダー錠の交換」です。シリンダー錠とは、住宅で最も一般的に使用される錠前で、福岡県をはじめとする県内の政令指定都市が監修する「賃貸住宅住まいの手引き」にも、トラブル回避のため、入退去時のシリンダー錠の交換が推奨されています。

シリンダー錠の形状イメージ画像

役目を終えたシリンダー錠の処分費の取扱いは不動産業者によって異なりますが、当社では自社負担で鍵メーカーに廃棄費を支払い処分しています。年間約5,000件の入退去に伴い廃棄されるシリンダー錠を1個当たり230gと仮定すると、年間で約1トン以上の重量が廃棄されることになります。一企業でこの廃棄量ですから、これが福岡市内、九州、全国の取引件数となると膨大な数字となります。このため、廃棄コストの削減と環境負荷の改善方法を模索しました。

リサイクルの可能性も調査しましたが、建物解体現場やリフォーム工事から出る一般的な建築資材は各資源ごとにリサイクルできますが、シリンダー錠は細かな分解が必要であり、資源回収をしてもリサイクルされにくいことが分かりました。また、回収運搬コストと買取価格が見合わない現状も判明しました。

そこで、私たちは視点を変え、「シリンダー錠そのものを生かした付加価値を創造する商品づくり」に舵を切りました。

知育玩具から産学連携アートプロジェクトへ

──具体的な制作物について教えてください
卒業課題発表当初は、以前から連携している支援学校での発注を念頭に「知育玩具兼オブジェ」の製作を考えていました。しかし、開発を進める中で、子供の安全性の確保や支援学校の得意分野との違いが浮き彫りになり、開発は困難を極めました。そこで、様々な可能性を探り、大学と連携してアートプロジェクトとして推進する方向に切り替えました。
現在は、九州産業大学の教授とディスカッションを重ね、アイデアを膨らませています。
シリンダー錠の性格上、安全面や製造コスト、ロット数、廃棄問題の解決など、さまざまな課題がありますが、この取り組みを通じて、お客様や不動産業界全体に新たなテーマを提示する機会になればと思っています。

──実際に取り組んでいて感じたことを教えてください
実行に移す楽しさと難しさを改めて感じています。また、SDGsを通じて収益化することの大変さを強く感じています。まだ迷走中ですが、まずは学生や地域の皆さんと連携し、一つの作品を作り上げること。そしてそれが収益化できるかどうか、他のアプローチも模索し続ける必要があると感じています。継続するためには収益が重要なので、そこも大切にしていきたいです。
引き続き会社外の方とも連携し、廃鍵問題をみんなで解決していきたいと思います。シリンダー錠だけでなく、壁紙クロス、コンセントプレート、水栓関係など、退去に伴い発生する廃棄資源全般を有効活用できる取り組みを目指します。

──SISを受講した感想をお聞かせください
芝さん)物事を1つずつ考える力を養うことができました。また、これまで部署が異なるため接点がなかった同僚とも、SISで同じ学びを共有したことで相談に乗ってもらう機会が増え、社内での交流も深まりました。

岡松さん)「SDGsとイノベーション」をテーマに学べたことは大きな収穫でした。ビジネスが社会課題の解決に向けて行うべきことは理解していましたが、それを体系的に学ぶ機会がこれまではありませんでした。講義を通じて実際に実行に移している方の話を聞けたことや、福岡校以外の参加者とのプレゼンテーションができたことは、非常に刺激的で、貴重な経験となりました。

アースプロジェクト福岡を通じた共創事業

次に、社長室 室長としてCSRやSDGsに関連する業務を担当しながら、2枚目の名刺として一般社団法人アースプロジェクト福岡(以下、アースプロジェクト福岡)の代表理事を務めている樋口さんにお話を伺います。

──まずはじめに、SIS(シス)に通おうと思ったきっかけを教えてください
2021年10月に現職の担当になりました。着任後、試行錯誤で半年ほど取り組んでいましたが、社会課題への取り組み方や制度に対して、自分に足りていないところを感じ、SISを受講しました。また、株式会社の視点とソーシャルセクター(社会課題解決を目的とした組織・団体の総称)の視点の両方を培い、どのような企業・団体があり、どのような社会課題の解決方法があるのか学ぶ機会が欲しいと思い、受講を決めました。

──一般社団法人アースプロジェクト福岡の仕組みや詳しい活動内容について教えてください
当法人は、三好不動産が主催する学生ボランティアの支援団体として、福岡の学生を中心に活動しています。主な活動は、災害被災地の復旧・復興支援、環境保全活動、こども食堂支援などで、これらを通じて地域社会や社会全体に貢献することを目指しています。現在は約2,400名のボランティアが登録しており、毎回多くの学生が参加してくれています。

三好不動産の歴史は、戦後復興期に賃貸住宅不足を解消するために始まりました。遠洋漁業の漁師から万が一の時、家族の生活を守るための相談を受けてアパート経営を提案し、全国初の不動産管理業としての基盤を築いたことがその起源です。会社の理念は地域の課題解決や社会貢献といった「お困りごとの解決」にあり、それを通じてビジネスを展開してきた歴史があります。

そして、アースプロジェクト福岡はこの価値観を受け継ぎ、行政やNPO団体、民間企業と連携して社会課題の解決に向けた取り組みを行なっています。

学生ボランティアとの打ち合わせ時の様子

すべては「お困りごとの解決」のために。「できる事から始めよう。」と支援を提供

──取り組みの一例を教えてください
2023年7月、豪雨による甚大な被害を受けた久留米市田主丸地区の方々を支援するため、アースプロジェクト福岡がハブとなり、様々な支援活動を行いました。そのひとつに、福岡市に本社を置くキューサイ株式会社( https://corporate.kyusai.co.jp )に野菜不足を解消するための青汁を提供いただくよう呼びかけをしました。

多くの被災された住民は、床上浸水によって、被災直後はキッチンやお風呂が使えない自宅の2階で生活する「垂直避難」を余儀なくされていました。これにより、主食がレトルト食品やカップ麺となり、野菜不足が深刻化していました。そこで、青汁の提供などを通じて栄養不足を補う取り組みを実施しました。
また、物資を提供するだけでなく、青汁を飲まない子どもたちには、福岡発の特撮ヒーロー「ドゲンジャーズ」のフクオカリバーが直接手渡すイベントを特定非営利活動法人YNF( https://saigaiynf.org/ )と共に開催しました。このイベントには学生ボランティアも参加し、メンバー一丸となって支援活動に取り組みました。

この実績をきっかけに、能登地震の際にも、共に取り組んだYNFが1月2日に現地入りし、石川県が被災初期に水や食料以外の支援を受け付けられないという状況でも、NPOが仲介したことで石川県珠洲市での青汁をはじめとする支援物資の受け取り体制を整えることができました。このように、アースプロジェクト福岡はNPOと企業の橋渡し役として多くの活動を推進しています。

以上のように、困っている行政やNPO団体に対して、アースプロジェクト福岡が株式会社とソーシャルセクター双方の視点から支援を提供し、企業ひいてはメディアと連携を図ることで、より多くの社会課題の解決に貢献しています。実際に、2023年度には45回のボランティア活動を行い、600名以上の学生・社会人ボランティアが参加しました。 ( 活動レポート一覧はこちら

──運営体制について教えてください
現在、社員を含めたスタッフ4名で運営しており、今後6名に増員する予定です。活動の90パーセントは学生が主体となっており、企画ごとにサポートスタッフに参加していただきながら進めています。

予算確保の面では、会社の予算に依存せず、ポジティブインパクトファイナンス(PIF)を獲得してその一部の費用を確保し、さらに2024年から2027年までの3年間で約4,000万円の休眠預金も確保しています。これまでの活動実績をもとに、資金面でも安定した運営が可能となっています。

最近の活動内容としては、災害被災地の復旧・復興支援、環境保全、こども食堂支援に加え、SDGsに加えてSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)や共創に重点を置く社会の動きに対応し、企業に対して「ビジネス」の視点からの提案も行っています。例えば、SDGsに合致した内容で企業とのタイアップ企画や、SX・共創への取り組みに関するセミナーへの登壇機会もいただいています。
こうした点からも、三好不動産とアースプロジェクト福岡の両輪によって、企業との接点が増え、双方の強みを活かした活動の広がりを感じています。

ゲスト講師を交えた福岡校集合写真

──最後に、SISを受講した感想と、継続的に社員の方がSISを受講することの利点があればお聞かせください
2022年にSISを受講し、株式会社が持つ役割とソーシャルセクターの視点の両方を理解でき、コロナ禍の影響で活動を停止していたアースプロジェクト福岡の活動再開に大いに役立ちました。不動産仲介業、管理業はアイデアやサービスを考えることが重要とされており、どんな時代になっても「個々の気づき」が必要だと考えます。特に今の時代で最も重要な気づきは、SXやSDGsの視点だと思っています。そして、そこからビジネスモデルを作っていけるかどうかがこれからの課題です。そういう知見を持った人間を増やしていくことが絶対に必要で、そうでないと生き残れないと感じています。
SISを受講することで、「個々の気づき」をビジネスに発展させる機会が得られると思います。現在SISに通っている社員は、アースプロジェクト福岡の活動を共にしているメンバーで、彼らにより多くの知見を持ってもらい、体系的に学んでほしいと思っています。

一般社団法人アースプロジェクト福岡
https://epfukuoka.or.jp

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