ソーシャル・イノベーション・スクールは、多くの企業から高い評価をいただき、サステナビリティと人材育成の分野で共に未来を切り拓くパートナーとしてご活用いただいています。本シリーズでは、社員派遣を通じて生まれた実践的な取り組みや気づきを企業の代表者から直接伺い、企業経営者や人材育成担当者の皆さまにとって参考になるポイントをお届けします。今回は、米倉 誠一郎学長がヤマネホールディングス株式会社(本社:広島市南区出島)代表取締役社長の山根 誠一郎様・株式会社シンギ (本社:広島県広島市)代表取締役の田中 友啓様にお話を伺いました。
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受講者が元気に帰ってくる理由とは?
インプット&アウトプットで頭をフル回転させる貴重な経験

米倉学長(以下、米倉):
本日は、広島校開設当初から応援してくださっている、ヤマネホールディングス株式会社の山根社長、株式会社シンギの田中社長にお越しいただきました。お忙しい中、ありがとうございます。
これまでお二方には、受講生の派遣やさまざまなご支援をいただき、本当に感謝しています。
今回は、どのような企業がソーシャルイノベーションスクールを応援してくださっているのか、そしてそれぞれの会社がどんな取り組みをしているのかを、読者の皆さんにご紹介したいと思います。
ではまず山根社長、ヤマネホールディングスとはどのような会社で、いつ頃設立されたのかを教えていただけますか。
ヤマネホールディングス株式会社 山根社長(以下、山根):
ヤマネホールディングスは、もともと「山根木材」という名前で、今年で創業115年になります。名前の通り木材業から始まり、現在は住宅向け木材、とくに構造材の設計・施工・加工を中心に事業を展開しています。さらに注文住宅や戸建てリフォーム、そのほか家具や介護といった生活関連事業も手掛けています。
米倉:
なるほど。最初は木材の提供から始まって、今では住宅関連や介護施設まで。
実は創設期から、同じ「誠一郎」というご縁もあって応援いただいているのですが、この学校に受講生を送ってくださったきっかけは何だったのでしょうか。
山根:
率直に言うと、米倉先生の話を広島で直接聞ける場があるというのはとても貴重でした。そして、ソーシャル・イノベーション・スクールに登壇される講師陣のクオリティが非常に高く、先生のファシリテーションによって内容がさらに充実している。こんな話をまとめて聞ける機会は広島にはなかなかない、まずこのインプットのレベルの高さが魅力でした。
それだけではなく、アウトプットを徹底的にやらせてもらえる。最初は役職者や中堅層を送ったのですが、職場ではあまり指摘を受けることがなかった人たちが、しっかりダメ出しを受け、頭をフル回転させる貴重な経験をしてきます。その結果、受講者が元気になって帰ってくる。これが良い循環になり、今も継続して送り出しています。
米倉: ありがとうございます。さすが後輩ですね、悪いことはちゃんと言わない…!
実は私の同級生に萩谷くんという旭化成の元社員がいて、「広島といえばヤマネホールディングスだよ」と勧められ、2人で押しかけたのを昨日のことのように思い出します。
本当に、講師陣だけは胸を張って推薦できる方々にご登壇いただいています。多彩なインプットと同時に課題を通じたアウトプット、この両方が役に立っているということでしょうか。
山根:
役に立っていますね。異業種の方々とチームを組んで話し合い、一緒にアウトプットを作る機会はなかなかありませんし、そのアウトプットの量も多いので、本当にさまざまな学びを得ています。
米倉:
おっしゃる通り、参加者は高校生から大学生、そしてさまざまな企業の方まで多彩なメンバーでグループワークを行います。覚えているのは、神戸のバウムクーヘンで有名なユーハイムさんと山根木材の受講生が、「花粉症が多い」という社会課題に目を向けていたことです。
最近話題の舌下治療は、杉の花粉を舌の下に入れて体を慣らす方法ですが、そこで「山根木材で出る杉のおがくずをバウムクーヘンに入れてはどうか?」というイノベーティブなアイデアが出ました。
残念ながら会社では受け入れられなかったようですが、そうしたチャレンジングな発想は、私たちには思いもつかないことです。そうした経験を会社に持ち帰ることで、新たな視点やアンテナが立つのだと思います。
社長ご自身は、そうした中で「これは面白い」と感じたアイデアや、変化を感じたことはありますか?
山根:
バウムクーヘンの話も面白かったですし、ほかにも「山を買おう」という話や、空き家問題をどうにかしようという議論もありました。
米倉:
それもありましたね。
山根:
社会課題をテーマにしているため、自分の仕事ではあまり考えなかった視点を他社の方と一緒に取り組むことで視野が広がり、大きな成長を見せてくれています。
地域産業から広がる環境配慮の輪と、グローバル展開への期待

米倉:
同じく、広島校の開校当初からご支援いただいている株式会社シンギの田中社長ですが、田中さんが我が校に受講生を送ってくださるきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
株式会社シンギ 田中社長(以下、田中):
まず、ちょうどコロナの最中だったと思いますが、僕が最初に受講したのは広島校の2期生のときでした。
当社は食品のパッケージを扱う会社ですが、コロナの影響で大きなダメージを受けました。これまでは食品パッケージ一本でやってきましたが、新しい分野にチャレンジしなければならないと薄々感じていました。とはいえ、社内ではなかなか新しいことに挑戦できずにいたところ、コロナで売上が下がり、出張もなくなったので、まずは自分が勉強しようと決めました。広島銀行さんから教えていただき、半年間勉強させてもらいました。
何より驚いたのは、山根さんもおっしゃっていた講師の方々のクオリティの高さです。それ以上に、生徒のみなさんのモチベーションの高さや、0から1を生み出すエネルギーには圧倒されました。業種が違っても、共通の目標を持ってプロジェクトを進めていく。これは、これから僕たちだけではできないことを、お客様や異業種の企業と協力して実現できるのではないかと学びました。先生から厳しく指導していただくこともあり、緊張感をもって取り組めたのも良かったです。
その後は毎期、2人ずつ全国の営業所から仙台や福岡などで参加させていただいています。
米倉:
食品パッケージ業界ですが、サステナブルな社会を考える上で、プラスチックゴミの問題は大きいです。バガス素材の開発は、この受講がきっかけだったのでしょうか?
田中:
前から取り扱いはしていましたが、どちらかというとメーカー主導のプロダクトアウト的な考え方でした。これまではそれでも良かったのですが、コロナを機にスピードアップが必要になり、環境問題への関心も高まったこともあって、オタフクソースさんなど地元企業とコラボしながら、新しい容器の開発を進めてきました。
米倉:
オタフクソースさんも受講生を派遣してくださっており、同社とのコラボレーションも多彩で興味深い取り組みが進んでいます。聞いている皆さんの中には『バガスって何?』という方も多いと思うので、簡単に説明していただけますか?
田中:
バガスはサトウキビの搾りかすをプレスして作る容器で、自然由来の生分解性素材です。日本よりも海外での普及が進んでいて、私たちも15年ほど前から輸入していました。コロナ明けくらいから環境問題への関心が高まり、ニーズが徐々に増えてきている状況です。
米倉:
確かに、世界ではマクドナルドやスターバックスなどがプラスチックごみ問題に取り組んでいますが、日本の場合は何といってもコンビニ弁当の量が非常に多いですよね。
そうした中で生分解性プラスチックに切り替えていくのはとても重要だと思います。
私は、社会課題を道徳や国の支援だけで解決するのは持続可能ではないと考えていて、ビジネスの力で解決してほしいと思っていますが、バガスの販売は順調に進んでいますか?
田中:
はい。まず広島県内のお好み焼き店で、プラスチック容器からバガス容器への切り替えを進めていて、展示会にも積極的に出展しながら広げています。
また最近ではお客さまの要望でたこ焼き容器の共同開発も進めており、(総合スーパーの)イズミグループのイズミフードサービスさんともコラボしています。
米倉:
広島といえばお好み焼きですから、その容器が環境に配慮したものに変わっているというのは良い話ですね。
田中:
オタフクソースさんの展示会では、バガス製の容器がロサンゼルスまで輸出されたという話も伺いました。
米倉:
ロサンゼルスまで輸出ですか。素晴らしいですね。グローバルな展開ですね。
素材のサトウキビは沖縄などでも採れますが、量は十分なのでしょうか?
田中:
沖縄の話はよく出ますが、量的にはあまり多くなく、もっと大量に生産できるところが必要です。
米倉:
なるほど。輸出入の中心はどのあたりでしょうか?
田中:
主にタイや中国、最近ではインドも増えてきています。
米倉:
海外との連携でさらに面白い展開が期待できますね。
巻き込む力で広げる社会課題解決と持続可能なビジネス

米倉:
我が校は「1mmでも社会を良くしよう」という志から生まれた学校ですが、なにもやらないゼロより、『まず動き出す』という意味での1mmの進歩が大事だと思っています。そうした意識を育てられれば、我々の世代はなんとか社会課題の影響や社会変化の厳しさを乗り切れると思うのですが、若い世代はまだそれに直面している状況です。僕自身も逃げ切れるかどうか怪しいですが、正直大変です。そんな中で、社会課題をビジネスで解決することについては、どのようにお考えでしょうか?
田中:
僕らの業界では、やはり環境問題と人手不足が大きな社会課題だと思っています。業界全体が抱えている問題で、環境問題をないがしろにしてはビジネスは成り立たないと考えています。解決策としては、例えば原材料を植物由来のものに変えていくことや、リサイクルの仕組みを作ることなどが挙げられます。特にリサイクルに関しては、一社だけで解決できる問題ではなく、消費者や行政なども巻き込みながら、みんなでプロジェクトを作っていく必要があります。そうした点で、このスクールで学ぶことは、私自身も社員にとっても非常に勉強になっています。また、どう相手の立場を尊重しながら一つのプロジェクトを進めていくか、という経験が得られる点も大きな魅力です。
米倉:
最近驚いたのは、西濃運輸さんが共同配送の取り組みを進めていることです。トラックの平均積載率は38%で、62%は空の状態で運んでいると言われています。(※)セブン-イレブンやローソンもそれぞれ自社のトラックを使っているので、一社だけでは効率化できません。ですが、今はAIの技術が進んでいて、かなり正確にマッチングが可能になっています。リサイクルの分野でも同じで、一社だけでは解決できない問題だからこそ、こうした協力が重要です。今後のゲストの方々には、AIを使った最新の取り組み事例もご紹介いただこうと思っています。
ヤマネホールディングスさんはこれからどのようにお考えでしょうか?
※出典:国土交通省・経済産業省など合同報告書「物流の2024年問題等への対応について」(2024年2月)によると、営業用トラックの積載率は2020年度に約38%と報告されています。

山根:
私たちの仕事自体が、温暖化や人口減少といった社会課題の解決に直結しています。まず温暖化への対応として、住宅の断熱性能や省エネ性能を高める必要があります。また、人口減少に伴う空き家問題も深刻で、ただスクラップにしてしまうのではなく、資産としてどう活かすかが地域や国の豊かさにつながる重要な課題です。木材資源も、外国から高コストで輸入するよりは、自分たちの裏山を上手に活用することが大切です。
暮らし方が変われば、家も変わります。社員にはそうした社会課題を自分ごととして捉え、お客様と一緒に解決策を作り上げていってほしいと思っています。答えは与えられるものではなく、自ら考え創り出すものです。
このスクールでは「社会課題解決のために利益をあげるのは良いことだ」ということを教えてもらえます。社会課題解決はボランティアではなく、利潤を出しながら持続可能なビジネスを作ることが重要です。
社員は大切な仲間であり、その仲間が増え、協力する業者さんも同じ方向を向いて、それぞれが解決策を生み出していく。それが私たちの目指す姿です。
実際にこのスクールで学んだ社員は社会課題を自分ごととして捉え、ビジネスで解決しようと前向きに取り組んでいるので、本当に参加させて良かったと思っています。
社会課題の中に眠る種を見つけ、利益につなげる新たな視点

米倉:
先ほどお話にあったトラックの平均積載率38%という話ですが、日本は世界で最も多く食料を輸入しながら、同時に大量に廃棄している国でもあります。
また、暖房費の話でもそうですが、断熱材を入れたり、二重ガラスに替えたりするだけで、初期投資は少しかかるものの、長期的には十分に回収できますよね。
例えば、家電量販店に行くと、今の冷蔵庫は3〜5年で電気代の差額分が回収できるぐらい、省エネ性能が大きく向上しています。こうした思考の転換こそが今、本当に求められていることだと思いますし、実はこれが大きなビジネスチャンスでもあるんです。
そういうものを「いらない」と言う人はほとんどいません。視点を変えることが重要なのです。
先ほどの話にもありましたが、ローンの仕組みも変えましょう。良いものを作っているなら金利を安くするなど、いろいろな工夫ができるはずです。
本当にソーシャルイノベーションとは、社会課題の中にチャンスの種があって、それが利益につながるということです。
ソーシャルイノベーションに取り組んでいる方々は素晴らしい人が多いです。心がきれいな方ばかりです。私が「儲ける」という言葉を使うと、過剰に反応されて「汚い」とか言われることもありますが、ボランティアだけでは続きません。経営戦略の第一人者であるマイケル・ポーター氏と、競争戦略を専門とする経営学者の楠木建氏も言っているように、視点を変えることこそが、これから一番儲かることなのです。
というわけで、お二人には我が校の開校当初からご支援いただき、御社自体が社会課題を解くことをビジネスにされていることを本当に嬉しく思います。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。

【企業情報】
ヤマネホールディングス株式会社
Webサイト:https://www.yamane-m.co.jp/
『物語がつづく暮らし』をキーワードに、住宅関連事を軸として、お客さま一人ひとりの暮らしの豊かさをカタチにするサービスを展開。広島県産材の利活用やZEH住宅の普及で家庭部門の脱炭素化を推進。耐震性に優れた長期優良住宅の提供や工場・現場での産業廃棄物削減・再利用にも積極的に取り組んでいます。
山根木材グループ SDGs 宣言について: https://www.yamane-m.co.jp/sdgs/
株式会社シンギ
Webサイト:https://www.shingi.co.jp
誠実で正しい道を進むことをあらわす「信義」を社是とし、1932年に創業。食品容器の企画・販売・サービスを通じて、資源やエネルギーを大切にし、環境にやさしい素材の選定など、地球環境保全に努めるクリーンな事業を目指しています。
シンギの環境への取り組みについて:https://www.shingi.co.jp/value/eco.html