ソーシャル・イノベーション・スクールは、多くの企業から高い評価をいただき、サステナビリティと人材育成の分野で共に未来を切り拓くパートナーとしてご活用いただいています。本対談シリーズでは、社員派遣を通じて生まれた実践的な取り組みや気づきを企業の代表者から直接伺い、企業経営者や人材育成担当者の皆さまにとって参考になるポイントをお届けします。今回は、米倉 誠一郎学長が日本盛株式会社(本社:兵庫県西宮市)代表取締役社長 森本 太郎様にお話を伺いました。

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老舗酒造のベンチャースピリット――136年の歴史の中で業界初を次々と生み出す日本盛

米倉学長(以下、米倉):
本日はお忙しいなかありがとうございます。  
今回は、我々の活動を支援されている皆さんがどういう会社の方なのかということと同時に、皆さんがこれからのサステナビリティや社員教育にどんな関心をもっているのか。あるいは、我々の学校をどう位置づけていらっしゃるのかお話を聞こうと思います。
まずはじめに、日本盛についてどんな会社かお教えください。 
 

森本社長(以下、森本):
日本盛は、明治22年(1889年)にできた会社でして、創業136年になります。 

米倉:
歴史のある会社ですね。

森本:
みなさんにそう仰っていただきますが、我々、社内ではベンチャー企業だと言っています。 なぜかというと、この会社ができた時代というのは、老舗の酒造メーカーさんがたくさんあり、今でいうと300年、400年の歴史を持っている会社さんです。
創業時は、その先輩企業がライバルです。そんななか、同じことをやっても勝てない。では、我々が追いつくために新しいことやらなければいけないという風にして、常に進取の精神を意識してやってきた会社なのです。 
なので、このベンチャースピリッツは創業時からありまして、実際、業界では初めて株式会社組織として創業しました。 
その後も業界で初めてテレビCMをだし、化粧品も業界で初めて取り組むなど、業界初がすごく多い会社かなと思っています。 

米倉:
 社長で何代目ですか。 

森本:
15代目ですね。家業としてやっている会社ではなく、会社組織として、有志が集まって作った会社なので、何代目とか意識することもあまりないですね。

伝統の酒造りを守りつつ、新事業で未来を切り拓く──日本盛のサステナブル経営術

米倉:
いろんな日本製のものがそうですが、日本酒も全体的には飲む人が少なくなっていると感じます。 そういう点では、いろんな工夫をしないといけない状況ですよね。 
まさに初期のベンチャースピリッツが生きる段階で舵取りをされているわけですが、どんなかたちで、日本酒という本業とそれ以外を、バランスを取りながら経営されているのでしょうか。 

森本: 
まず日本酒でいうと、出荷量のピークが昭和48年(1973年) になり、直近で数字が取れるのは令和4年(2022年)ですが、ピークに比べて22、3パーセントまで減っています。
約80パーセント、マーケットとしては小さくなっていまして、もう5分の1ぐらいの規模になっています。 
なので、マーケットが伸びている時代にやった設備投資が、今のこの工場なのですが、その工場設計のままで5分の1の需要になったマーケットに立ち向かうのは正直難しいです。 今、その需要に合わせた生産体制をどう組むかという点で頭を悩ましています。 
一方で、事業として継続しなければいけないので、数量は減っていっても利益が取れるように、単価を上げる戦略や、国内は人口減少もあって長期的に今の流れは変わらないでしょうが、海外のマーケットにも取り組んでいき、バランスよく組み合わせてやるようにしています。 
一方で化粧品は、業界初で取り組み今年で40年弱になりますが、早いタイミングで取り組めた点が良かったなと思っています。化粧品には、お酒を作るときに出る副産物の「米ぬか」を使っています。 
当時20代の女性社員が、お酒作るのに米を削って、それを捨てるのはもったいないと考えから、有効活用できる方法を考えました。 
昔から、家庭では米ぬかを袋に入れてお風呂のなかでつかい、肌に保湿を与える。そんな習慣がありました。もしくは、酒造りの責任者を杜氏(とうじ)と言うのですが、杜氏の手がとても綺麗だと。これも米ぬかの力だという話もあり、化粧品に使ってみたらどうかという発想が、今の事業の1つに繋がっています。 

なので、お酒はもちろん祖業でありますので、そこを維持しながらどうこうやって化粧品含めた利益事業を作っていくかなというところです。

米倉:
これから海外のマーケットにも取り組んでいくということですが、ビール、ワイン、ウイスキーなど、たくさん強豪がいます。最近はノンアルコール飲料もそのひとつです。海外は海外で競争が激しいですが、日本酒も大変ですね。

森本:  
やりがいがありますね。 

日本盛のSDGs実践例:地域支援から健康志向商品、環境配慮包装まで

米倉:
環境のせいだけにしていると答えがないですからね。 どうやって自分たちの技術、あるいは自分たちの販路を開拓していくかですね。 
そういう中で、我々の学校が伝えているSDGsについて。
持続可能性のある成長をもうそろそろ考えないといけない時代になりましたが、日本盛としてのSDGsの取り組みは、どんなかたちでやっていますか?
先ほどの削った米を捨てるのはもったいない、という考えもその1つですよね。 

森本: 
酒造り自体が、かなりSDGsに近しいものだと思います。 
通常、酒を造るときはまずお米を仕入れますが、昔から農家さんとの協業があります。これは村米制度と言って、農家さんと契約をして、作ってくれた分は買いますよ、酒造りに使いますよというふうに取り決めたら、農家さんは安心して毎年作れるじゃないですか。
こういう信頼関係が昔から成り立っていて、ある意味地域支援なのか、一次産業の振興というところから端を発して、SDGsに近い取り組みをずっとやってきたのだなと思っています。 
その中でも、2020年に社長に就任し、同年に社内でSDGsのプロジェクトチームを作りました。
昔から社会にいいことはしてきたけども、目に見えるかたちで取り組めるといいよねということでプロジェクトを発足しました。 
その中でやろうとしたのは、 
「健康に役立つことをしよう。」「環境に役立つことをしよう。」「地域貢献もしていこう。」、この3つの柱を立てて取り組んできました。  

米倉:
地域と分断したら本当は成り立たないのに、大量生産、大量販売の中で地域と全く関係ないような成長を遂げてしまった。 それはこの業界だけじゃなくて。
やっぱり回帰して、あるものを豊かに使って、まさに持続的な成長をしなければいけないっていう段階にいると思うのですが、健康と環境と地域貢献を具体的にどんなかたちで表現されているのですか。 

森本:
健康でいうと、我々メーカーですので健康に資する商品を作ろうというので、糖質・プリン体がゼロの商品( https://www.nihonsakari.co.jp/zero/ )があります。 

米倉:
糖尿病予備軍としてはありがたいですね。

森本:
みなさん日本酒は糖類の関係で、焼酎にしようというかたもいる中で、この商品が今ずっと伸びていまして、発売から10年を迎え、伸び続けてる商品って非常に珍しいです。 
実際に、これが我々にとって初めてではなくて、実は1995年に『健醸(けんじょう)』というお酒を出しました。
我々は健康商品のパイオニアだという風にこの業界の中では注目されています。
『健醸』って何かというと、当時、肝臓にいいとされた成分でイノシトールという成分があり、それをお酒が発酵する時にたくさん出るような仕込み方法にしました。そうしたら、飲みながらにして肝臓が良くなるという。 
今後の高齢化っていうのは見えていましたから、年を取って飲めなくなるのではなくて、上手に年齢とともにお酒と付き合ってもらうという考えです。 

米倉:
先ほど言われた化粧品も、健康というか、肌を健やかに保つ意味合いがありますよね。基本は米ぬかをベースとした商品が多いのでしょうか。 

森本:
米ぬかが入っているもののほかに、日本酒が入っているものもあります。 日本酒には保湿成分があるみたいでして、現在さらにもう一歩進めて、科学的見地のある健康成分や美容成分を含めたものを、酒づくりの仕掛かりのものから抽出できないかということをやっています。

米倉:
それは楽しみですね。さらに、環境という点では、これもかなりいろんな配慮された作り方をされていますね。

森本:
包材に工夫をしていまして、紙容器にはバイオマスかつ森林認証の資材を使っています。またパッケージ印刷にはライスインキという、石油由来ではない原料を使っています。

そのほか、当社は基礎化粧品が多いのですが、中にはメイクアップの商品もありまして、化粧箱にはサトウキビの搾りかすをリサイクルした環境配慮紙(バガス)を使用しています。

量的にはまだ大きなインパクトではないですが、こういう取り組みをやっていくことが、社員1人1人の意欲や意識の向上にも繋がっています。
 

酒造りを通じて地域と未来を育む日本盛の共生戦略

米倉:
環境とか健康経営っていうのは、お客様だけじゃなくて、働いているみんながプライドをもつこともとても大事ですよね。 
最後の地域貢献についてお尋ねします。これは先ほど農家さんとの協業のお話もありましたが、最近ではどんな取り組みをされていますか。

森本:
近隣の方に、日本盛って地元のメーカーだよねと、わかってほしい思いがあり、定期的に『蔵開き』というイベントやっています。年に2回工場を開放して、たくさんお酒を飲んでもらう機会を作っています。 
やはり地域のご支援があったから商売が成り立っていることを、お返しするようなきもちで開催しています。
そのほかに、近隣の学校への協力というのもあって、日本盛育英会( https://www.sdgs.nihonsakari.co.jp )という活動や、小学校や大学への出張講義で日本酒についてお話をしたり、大学によっては一緒に酒造りもしています。

米倉:
大学や地域と共生しているっていうのは、人材獲得にとっても重要ですよね。 

森本: 
実際に、ある大学の研究室と酒造りをしたのですが、院生1回生の子から、ある日当社に連絡がきて「酒作りが忘れられません。働きたいです!」と。そういうのもあるのだなと思いましたね。 

米倉:
魅せられるものがあるのですね、酒造りには。 

森本:
あるのでしょうね。もうのめり込んじゃう。泊まり込んででも、もうずっと酒を作りたいっていう。 
 

アウトプット重視の実践型研修で組織全体を活性化

米倉: 
「健康に役立つことをしよう。」「環境に役立つことをしよう。」「地域貢献もしていこう。」、この3つの柱を立てて取り組まれるなかで、社員のみなさんを我々のソーシャル・イノベーション・スクールに派遣いただくことは、御社にとってどんな意味があるのか。 実際に送ってみた感想をお聞きしたいなと思います。 

森本: 
日本盛がやっていた人材育成というかプログラムが、大手の金融機関さんが供給してくださっているパッケージ型の研修でした。たくさんコマがあって、自分が好きなのを選ぶプログラムがありました。
一定の効果はあるのだと思いながらも、社員がもっと自発的に成長したいという思いには応えられていないのではないか、とずっと思っていました。 
多分この会社の特性だと思うのですが、真面目な社員が多くて、朝起きて会社に来ます、仕事をします、家に帰ります。で、また翌朝会社に来ますという。 コミュニティが会社にしかない。 
本当はもっと社会の人と触れてほしいなと思っていました。 

刺激があるっていうのは大事なことで、この業界とは違う業界の人だとか、自分が経験していない違う環境で過ごした人とか、経験値を持っている人とか。 
多分そこと接点を持つことで刺激になって、さらに成長するのではないかという思いがあって。 
でも、私がこの会社にきて思ったのは、そういう場がないなということでした。 それを作りたいなと思っている時に、たまたま友人に誘われて参加した建築家の安藤忠雄さんと米倉先生のイベント( https://web.cr-sis.com/info/20230220seminnar/ )に参加させていただきました。 
参加して、純粋に面白いなと。
何が良かったかというと、1つの話題でも先生すごく引き出しが多いじゃないですか。 
話題が膨らむし、示唆が多いというか、そういう話を聞けるってこと自体に僕自身が刺激をいただきまして。 
当初は私が参加しようと思っていましたが、せっかくの機会だからということで、社員に門戸広げることにしました。 

米倉:
講師陣も多様性に富んでいるのですが、実は生徒さんも多様な業界から参加しています。
加えて、奨学生制度を設けているので、協賛企業のみなさんにご支援いただき、高校生、大学生、大学院生は無料で受講をしています。
大人が自分の子供のような若者と議論して。そういう点では非常に多様性があるので、まさに刺激になっていってほしいなと思いますし、なっているように感じます。 
その後、40歳以下の先生を対象にした奨学生制度も設けました。(2025年6月現在) 
SDGsやこれからの環境問題、世界との問題を先生たちって結構リアルに知らないので、この学校に来ることでかなり刺激を受けている先生もいます。 
そうすると、授業も生き生きとしたものになるじゃないですか。 
本当に多様性に富んでいる学校です。
僕たちは受講生に卒業課題を出して、「社会課題をイノベーティブな手法で解決するビジネスプラン」を出してもらうのですが、派遣してくださった社員からのフィードバックはありますか? 

森本:
(今日は実際のレポートを)持ってきました。
社員から出た声としては、受講者は普段聞くことができない各企業のトップの話、もしくは社外の方とのディスカッションや交流を通じて、色々な考え方や、普段は意識しない視点から授業を見ることができ、視野が広がった。新しい視座を得ることができたという、いい声が出ています。

副次的にいいなと思うのは、本人が学んだだけではなくて、そのメンバーが社内で生き生きと働くことで、周囲へプラスの影響もあるなと思っています。 
だから、単に本人だけのメリットではなくて、組織全体としてメリットが出ているのではないかと感じています。 
 

米倉:
ありがとうございます。本当に誇れる講師陣が揃っていますし、それから我々の学校としての1番の特徴は、インプットする座学だけだとやっぱり身に入らないのです。 だから、アウトプットをさせる。で、その関係でいろんな人たちとディスカッションをする。 そういうことで学びを深くするという仕組みにしています。

森本:
はい。素晴らしい機会いただいています。

伝統を背負う日本盛が挑む、日本酒文化とビジネスの両立

米倉:
最後にですね、日本企業のなかでも、特に日本盛のような伝統的な企業は『見えない価値』というものをこれから売っていかなければいけないのだろうなと思います。 そういうことからいうと、日本盛は背中に日本の伝統を背負っていると思うのです。その辺に関してはどうでしょうか。

森本:
日本酒という文化をどう維持していくかと、その文化をどうビジネスに結び付けるかという2つがあると思っています。 
実際にその文化だけで言うと、2024年にユネスコ無形文化遺産に登録されることもあり、世界に向けて多少なりとも、名前は広めていけているのではないかと思います。 
ただ一方で、例えば着物という文化が昔と比べてどうなったかというと、洋服に変わり、晴れの日であっても、ドレスやスーツに変わったということで、日本の文化だからといってビジネスとして安泰かというと、そうじゃないことを目の当たりにしています。
正直、文化を維持しながらどうやってビジネスとして継続するかにすごく頭を悩ましています。

文化だけでしたら、地域社会への貢献という意味でも、出張講義やセミナー、体験型ワークショップ、イベントに出て日本酒を飲んでもらうこともやってはいますが、それだけだとなかなか商売に繋がらないっていうのがあります。 
なので、あとはどう日常的に日本酒に親しんでもらうか、毎日飲んでもらうか。そこに繋げる方法をずっと模索しています。 
だから、さきほどお伝えした、日本酒の輸出展開や、高単価製品の開発に加えて、『ファンの獲得』というか、日本酒の裾野をどう広げていくかが、文化の継承に1番大事なんじゃないかなと思います。 
 

米倉:
やっぱり文化をある意味でビジネスとくっつけていかないと、大きな広がりっていうのは難しいですよね。 
そういう点では、海外で日本食がブームになったおかげで引っ張られるように日本酒っていうのも合うんだぞと。 ただ、そんなに詳しいわけじゃないですが、ワインに比べると日本酒って難しいですよね。 古くなれば良くなるっていうものじゃないじゃないですか。

森本:
多分ですね、日本人の中で日本酒の価値観が昔からあるとして、この価値観は今後変わっていくと思うのです。先ほど、ヴィンテージの話もあったと思います。 日本酒もエイジング、年代を置いていけば、昔の日本人の感覚だと美味しくないというか、まずくなったと思うのですけど、最近古酒の流れは芽生えてきていまして、ちゃんと保存をすればお酒が美味しくなると聞いています。 
実際我々も8年熟成などはやりましたが、これまで我々が知っているフレッシュさがある日本酒ではないですが、それはそれでまた旨みのある酒ではありました。 
 

米倉:
あと、消費者の観点から言うと、日本酒って格段に美味しくなりましたよね。 
食事にも合わせる時の種類も増えて。 レストランなんかもそういうメニューの見せ方になってきたじゃないですか。 
今までは日本酒、熱燗、冷酒だったのが、たくさんの銘柄がでましたよね。 地方のお酒が出てきた。 
そういう点では、楽しまれる人たちがもっともっと増えてほしいですね。 
実は僕、熱燗が好きなのですが、熱燗を飲まない人が増えましたね。 
やっぱり日本酒は大吟醸、冷やが美味しいとか言いますが。
 

森本:
飲みやすいですよね。フルーティーな香りが楽しめて。 
でも本当は、世の中に複数あるアルコール飲料のうち、日本酒だけが唯一いろんな温度帯で楽しめます。ホットワインなんかもありますけど、一般的ではないので、温めて飲む酒は少なくて。 

米倉:
そうですか。じゃあ、まだまだ課題はたくさんありますが、やはり日本から日本酒がなくなることはありえないことですし、ぜひ文化の下支えをしてください。 
それから、環境とか地域、我々の学校からもそういうことを支援していきたいと思いますので、ぜひ頑張っていただきたいと思います。 
本日はお忙しい中、ありがとうございました。

森本:
 こちらこそありがとうございました。 


【企業情報】
日本盛株式会社
Webサイト:https://www.nihonsakari.co.jp/
『もっと、美味しく、美しく。灘・西宮郷から、次の日本盛へ。』をスローガンに掲げ、100年以上の歴史を誇る老舗酒造メーカーです。伝統の技術と革新を融合し、高品質な清酒を提供しています。
SDGsへの取り組み:
https://www.sdgs.nihonsakari.co.jp