ソーシャル・イノベーション・スクールは、多くの企業から高い評価をいただき、サステナビリティと人材育成の分野で共に未来を切り拓くパートナーとしてご活用いただいています。本対談シリーズでは、社員派遣を通じて生まれた実践的な取り組みや気づきを企業の代表者から直接伺い、企業経営者や人材育成担当者の皆さまにとって参考になるポイントをお届けします。今回は、米倉 誠一郎学長が株式会社石﨑ホールディングス(本社:広島県広島市)代表取締役社長の石﨑 泰次郎様にお話を伺いました。

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100年企業・石﨑ホールディングスが挑む、自動車部品の“次のカタチ”

米倉学長(以下、米倉):
本日は、社長ご自身が本校の講座を受講され、しかも広島では優良企業として広く知られる株式会社石﨑ホールディングスの石﨑泰次郎社長にお越しいただきました。
早速ですが、この学校を知ったきっかけをお聞かせください。

石﨑社長(以下、石﨑):
広島の経営者ネットワークの中で懇意にしている方から、「素晴らしい会があるから行ってみないか」とお誘いいただきまして。最初は説明会に参加させてもらったのがきっかけですね。

米倉:
我々はもともと東京から始まり、広島校だけでなく、名古屋、大阪、福岡などにも分校がありますが、ご存じない方もいらっしゃると思います。石﨑ホールディングスさんは、どんな会社なのでしょうか。

石﨑:
弊社は創業から100年以上の歴史があり、現在のメイン事業はマツダさん向けの自動車部品です。もともとはガラスの卸売りから始まり、ガラス関連の仕事を続けてきました。今も建築用ガラスなどの事業が全体の2割弱ほどありますが、8割は自動車向けです。フロントガラスのアッセンブリーや、現在の主力であるサイドミラーの製造などを手がけています。

米倉:
部品としてフロントガラスを納入し、さらにミラーも手がけていると。ミラーにはモーターなども含まれるんですか。

石﨑:
そうです。弊社は完成品メーカーとして、内部のアクチュエーター、樹脂成形、塗装など、成形から開発・設計まで一貫して行っています。

米倉:
最近のミラーは後方センサーや曇り防止機能など、かなり進化していますよね。そうした製品も含めて製造されていると。従業員は現在どれくらいいらっしゃるのでしょうか。

石﨑:
国内と海外に拠点があります。国内が約1,000人、海外は1,200人ほどになり、最近では海外のほうが規模が大きくなってきています。

米倉:
もう完全にグローバルカンパニーですね。
自動車産業は、EVや水素など選択肢が広がっていますが、基幹部品は今後も残っていくと思われますか。

石﨑:
世界市場全体で見れば、ミラーやガラスはまだ需要があると思います。ただ、先進国ではすでにミラーがカメラ化してきており、私たちがこれまで担ってきた“メーカーとしての機能”が変わっていく危機感はあります。ですので、新しい製品の開発にも積極的に取り組んでいます。

大学生から経営者まで──多様な視点がぶつかり、融合するグループワーク

米倉:
そういう中で、我が校は「持続的な成長」をビジネスチャンスとして重視し、取り組んでいます。今期はまだ始まったばかりですが、社長が通われてみてのご感想はいかがですか。

石﨑:
説明会でパンフレットを拝見したとき、「これはすごくためになりそうだな」と同時に「結構大変そうだな」という印象を持ちました。社員に役立てられるよう、まずは自分が話を聞いて紹介できればと思っていたのですが……結局は自分が手を挙げて受講することになりました。実際に始めてみると、想像していた通りの面白さと大変さを感じています。

米倉:
我が校の特色として、豪華な講師陣によるインプット講義と、企業の代表への提言を行うグループワークがあります。今期はモスバーガーの中村社長へのプレゼンですね。

石﨑:
このお題をいただいて、元々よく知っている有名企業ではありましたが、改めて自分なりに調べたり、「自分にとってのモスバーガーとは何だったのか」を掘り下げたりしました。
総じて印象は素晴らしいのですが、調べてみるとさまざまな取り組みが行われており、その中でどうやって新しい提案をしていくべきか、チーム全員で悩んでいます。チームには現役大学生もいれば、会社員の方もいて、本当に多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まっています。限られた期間の中でどうまとめていくか、私がどこまで役に立てているかはわかりませんが、全力で取り組んでいます。

米倉:
調べてみると、もうすでに幅広い取り組みをされていますよね。そうなると、どんな提言をしたらいいかは結構難しいですか。

石﨑:
はい、難しいですね。かなり多方面にわたって活動されているので、その強みをどう活かすかを考えています。

米倉:
そうですよね。モスバーガーの中村社長も伊達や酔狂で経営されているわけではありません。そこに新しい視点を持ち込むことが、我が校の醍醐味なんです。
おそらく中村社長が楽しみにしているのは、例えばガラスのパーツサプライヤーや開発企業の社長が、自社をどんなふうに見ているのかという視点。そして、大学生がマクドナルドやモスをどう使っているのかという生活者目線です。意外と知っているようで知らないことも多いので、そういう対話が生まれることを楽しみにしています。

自動車産業のサステナブル転換期──日本が「作り方」「資源回収」「街づくり」でリーダーシップを握る

もう一つお聞きしたいのですが――
先ほど「サステナブル」というテーマが自動車メーカーにとって重要になっているとお話しされましたね。私は最近調べていて、1920年代にGMが「プランド・オブソレセンス(計画的陳腐化)」という考え方を打ち出したことを知りました。これは、性能とは別に「古く感じる」という概念を作り出し、定期的にモデルチェンジさせることで成長を続けるビジネスモデルです。
この仕組みは、人間の「新しいものを持ちたい」「人と違うものを持ちたい」という本能と、企業の「高い利益率を維持したい」という思惑が一致し、20世紀から今に至るまで強力に機能してきました。
しかし、その結果、例えばファストファッションでは、1度も袖を通さない服が何百万枚も作られ、アフリカの砂漠に捨てられるような事態も起きています。大量生産・大量廃棄は、もはや許容されない時代です。

自動車も同じで、これまでは新型を作って古い車をスクラップにしてきましたが、その過程で膨大な資源が無駄になってきました。こうした「モデルチェンジありき」の仕組みを、どのように持続可能な成長モデルに変えていけるとお考えでしょうか。

石﨑:
先生にもいつも教えていただいていますが、SDGsの価値観には私自身も非常に親和性を感じています。自動車業界全体としては、カーボンニュートラルの方向に進んでいるのが大きな流れで、それに沿ってESGの活動が活発になっているのが現状だと思います。目先ではEV化が注目されていますが、まずはその実現に向けて具体的に取り組んでいるところです。

米倉:
先日、広島県が推進している「ひろしまグリーンオーシャンプロジェクト」に登壇した際、従来はメーカーにとって「品質」「価格」「納期」が重要な3要素でしたが、今はScope3(スコープスリー)のように、本社だけでなく部品供給業者や関連企業も含めたCO2排出量が問われる時代になってきました。品質・価格・納期に加え、CO2削減が競争力のひとつになっていく時代だと思います。
ですから、例えばフロントガラスの品質や強度に加え、その製造プロセスがどれほどサステナブルかが企業の強みになってくる。自動車の脱炭素というとすぐにエンジンの話になりがちですが、製造の全体的なあり方も見直す必要があります。

ちなみに私は日本ファシリティマネジメント協会の会長も務めていますが、最近衝撃的だったのは、建築業界では新築ビルの需要がわずか1%、新築住宅も1.4%程度しかないことです。つまり、既存の建物をどうリノベーションして使っていくかが今後の大きなトレンドになっています。
これまでは「スクラップ&ビルド」(作っては壊す)でしたが、今は躯体だけを残して構造を変えたり、改修を重ねたりする形に変わっています。途中で発生するCO2排出量も厳しく計算されるようになってきました。
こうした第3の競争力とも言える環境配慮の視点は、サプライヤーにとって非常に重要です。この点について、石﨑さんはどのようにお考えでしょうか?

石﨑:
本当におっしゃる通りで、私も大きなチャンスを感じています。もちろん課題も多く、業界全体の問題になると解決は簡単ではありません。例えばガラスに関して言うと、建築用のガラスは解体現場から綺麗なものを回収するのがまだまだ難しい状況です。ただ、社会的な要請もあり、業界として回収・再利用に取り組もうという機運が高まっています。
そうなると、私たちは単にガラスを取り付けるだけでなく、専門家として回収の仕事や市場も生まれてきます。これは新たなビジネスチャンスだと思っており、とても楽しみにしています。これまでは一社だけでは実現が難しかったことも、今は業界全体で取り組む流れができています。特に建築関係のガラス回収はこれまでほとんど行われてこなかったので、今後の動きに期待しています。

米倉:
我が校としても、ものづくりの段階から壊す時のこと、流行遅れや使用限界を迎えた時のことまでを考えて取り組むべきだと考えています。日本がこの分野でリーダーシップを取ることは非常に重要です。
先日、インドネシアの人口は2億8000万人に達していると聞きました。私が20年前に訪れたバングラデシュは1億2000万人ほどでしたが、数ヶ月前には1億8000万人になっていて、世界の人口は爆発的に増えています。日本は少子高齢化ですが、世界全体を見ると拡大が続いているわけで、そのまま昔と同じやり方を続けたら地球環境は破滅してしまいます。
だからこそ、日本は「作り方」や「資源の回収方法」、「街づくりのデザイン」といった点で責任を持ち、リーダーシップを発揮していくべきだと思っています。その最前線にいるのが石﨑ホールディングスのような企業だと感じています。
このソーシャル・イノベーション・スクールで学びながら、私たちはサステナビリティを単なる道徳論ではなく、ビジネスとして成立させることが大事だと考えています。ぜひ、最先端の取り組みを切り拓いてほしいと思います。

米倉:
実際、この学校に通ってみて、情報は十分に得られていますか?

石﨑:
これから半年間ご一緒させていただく中で、いろいろなネットワークにつながっていけるのではないかと感じています。経営者の方が、若い社員の方々をどんどん送り込んでいる様子も見て取れますので、私たちもそれについていきたいと思っています。勉強意欲のある人たちとのネットワークが広がっていくのは、とても心強いですね。

米倉:
講師陣も素晴らしいですが、受講生がいい人たちばかり、というのが何より嬉しいんですよね。みなさん問題意識を持って参加されていて、活発にディスカッションもされています。ぜひ様々なことを学んでいただき、それを御社に持ち帰って競争力につなげていただければと思います。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。


【企業情報】
株式会社石﨑ホールディングス
Webサイト:https://www.ishizaki-hd.co.jp/
1918年の創業以来、「和誠(わとまこと)」を経営理念に掲げ、自動車用ガラス・ドアミラー事業や建材用ガラスを展開。2022年に分社化しホールディングス体制へ移行。環境配慮と持続可能な成長を目指し、次代を切り拓く事業展開に取り組んでいます。
石﨑ホールディングスのサステナビリティについて:https://www.ishizaki-hd.co.jp/sustainability/