ソーシャル・イノベーション・スクールは、多くの企業から高い評価をいただき、サステナビリティと人材育成の分野で共に未来を切り拓くパートナーとしてご活用いただいています。本対談シリーズでは、社員派遣を通じて生まれた実践的な取り組みや気づきを企業の代表者から直接伺い、企業経営者や人材育成担当者の皆さまにとって参考になるポイントをお届けします。今回は、米倉 誠一郎学長が株式会社チヨダパック(本社:広島県山県郡北広島町)代表取締役 本田 正博様にお話を伺いました。
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「脱プラ時代」に学び直しを決意──コロナ禍に社長が選んだ“学び”の場

米倉学長(以下、米倉):
今日は、広島校開校以来、継続してご支援いただいている株式会社チヨダパックの本田正博社長にお越しいただきました。
早速ですが、チヨダパックの事業内容を教えてください。
本田社長(以下、本田):
当社は、パッケージを製造しているメーカーです。主にプラスチック製のパッケージを扱っており、用途としてはお菓子類の外装箱が中心です。特にバレンタインやクリスマスといった季節イベントの際に多くの需要があります。
創業は34年前で、ここ広島で事業をスタートしました。現在は本社を広島に構え、栃木県鹿沼市にも工場を設けており、全体で約80名のスタッフが働いてくれています。
米倉:
本学に入学したきっかけを教えてください。
本田:
当時、5年ほど前に「脱プラスチック」が社会課題として注目され始めました。その直後にはコロナ禍が訪れ、私は全国を営業で回っていたこともあり、月の半分以上は出張していましたが、それも難しくなってしまいました。
そんな中、知り合いの社長から「今は思うように出張もできないし、SDGsの勉強でもしてみよう」と声をかけてもらい、ソーシャルイノベーションスクールを紹介されたことが、入学のきっかけでした。
米倉:
実際にご入学されてみて、いかがでしたか?役に立ったと感じることはありましたか?

本田:
最初は、正直まったく何を話されているのか分からなくて、「これは続かないな、半年ももたないかも」と思っていたんです。
でも、インプットとアウトプットを繰り返す中で、少しずつ理解が深まり、結果的に自分自身の成長にもつながったと感じています。
三世代が通った母校を地域の拠点に──「廃校」から始まった再生物語

米倉:
本校では、先生の講義を聞いて学ぶ“インプット”と同時に、企業の社長の前でプレゼンを行ったり、社会課題に対して自分たちでテーマを設定し、解決策を発表する“アウトプット”にも力を入れています。
本田さんが取り組まれたテーマを教えてください。
本田:
現在、廃校となった小学校の一教室をカフェに改装した場所でお話しています。この小学校は、私の父、私、そして娘の3代にわたって通った学校ですが、12年前に廃校となりました。
廃校になったきっかけは、うちの娘の同級生がたった一人しかいなかったことです。全校あわせても19人くらいしかいませんでした。
私は、それは教育として問題だと感じていました。
親としては、やっぱり子どもには大勢の中で揉まれてほしいですし、社会に出るための勉強としても大切だと思ったんです。
そうした思いから、PTAや地域の区長会に出席して廃校の決断を説明し、理解を得ました。結果として、学校は廃校となりました。
米倉:
本田さんは、こちらの北広島のご出身ですか?
本田:
はい、実家はすぐ近くにあります。
廃校にした際、地域の皆さんからは「小学校がなくなったら過疎化が進むのではないか」と心配されましたが、私は教育と地域活性化は別の問題だと考えました。
「地域活性化は自分がやるから」と伝え、廃校に踏み切りましたので、責任は自分にあると思っています。
その後、SISで半年間学び、卒業課題があったので、ずっと気になっていたこの廃校問題を卒業課題にしようと決めました。
すると、一緒に学んだ仲間たちが「私たちも手伝うよ」と声をかけてくれて、当時7人ほどのメンバーで卒業課題を作り上げていきました。

米倉:
面白かったですよね。
プラネタリウムをやろうとか、ギャラリーとして使おうとか、いろいろ話が出ました。
その第一歩としてカフェを始めたんです。お隣にはベーカリーがありますね。
本田:
パン屋さんが入ってくれることになりましたが、当初は地域の空き家を購入して改修し、お店を開かれる予定でした。
しかし、「ちょっと待ってください」とお願いし、ここ(廃校)には空きスペースがあること、地域の空き家の改修には費用がかかるため、ぜひこちらに入ってほしいと伝えたところ、快く入居してくださいました。
米倉:
しかも、一緒に学んだ砂原さんがこの廃校の施工を担当してくれて、みんなの力が結集しましたね。
ここのカフェの名前も素敵ですよね。スパイスカレーとタルト専門のカフェ「South in North(サウス・イン・ノース)」。

本田:
そうですね、ここは北広島町の南方(みなみかた)地区にありますから。
だから、「北広島町の南方」という意味で名付けたんですけど、まあ、北なのか南なのかはっきりしろって言われることもありますけどね。でも、それはそれとして、いい名前を付けたと思っています。

米倉:
ちなみに、この地域新聞の名前は『みんな味方』というんですね。
本田:
はい、南方(みなみかた)地区のものですからね。
これは月に一回、この地区の区長さんが文章を出しているんですが、結局、小学校が無くなったら、子どもたちが何をしているのか、どこに何人いるのか、どこへ行ったのか、地域の情報が全く分からなくなってしまうんです。
それを危惧して、月に一枚のA4サイズのペラ紙ですが、新聞を毎月発行して、もうかれこれ10年になります。
米倉:
やはり、廃校にしてしまったことが心に引っかかっていたんですね。でも、今ではこうして素晴らしい形になって、皆さんがカフェに訪れて賑わっています。地域の皆さんに愛されている証拠ですね。
本田:
やっぱり地域って、集まる場所や機会がないと、どんどん廃れてしまいますからね。だから、ここを拠点にしたいと思っています。さっきも見てもらった通り、校庭ではおじいちゃんおばあちゃんがグランドゴルフを楽しんでいますし、うちの母も来ていますよ。
起業支援からサウナ誘致まで ─ 仲間と育てる地域の拠点

米倉:
後で全体の様子もお見せしますが、校舎ですからまだまだいろいろな使い方ができそうですよね。お客さんがもっと入ってくれることで、地域の活性化もさらに進みそうです。
どんな人たちに来てほしいと思われますか?
本田:
あの、先ほども少し触れましたが、隣にパン屋さんができたんです。でも正直、パン屋さん1軒だけでは人はなかなか来ないんですよね。
そこにカフェがあることで、「あ、ちょっと寄ってみようか」と思ってもらえる。で、この建物は2階建てなんですが、1階には今後、花屋さんやネイルサロンなど、いろんなショップに入ってもらえたらと思っています。
米倉:
ここって、広島市内から約50分ぐらいですよね。
本田:
そうなんです、近いもんですよ。
パン屋さんが低予算で入居できたというのもありますけど、やっぱりスタートアップの方たちに、こういう場所を活用してもらいたい。起業するにはぴったりの場所です。
米倉:
たとえば、ドローン関連のスタートアップとか、入りやすいんじゃないですか?
本田:
ええ、実際に「この教室を使いたい」という声も出てきています。
2階部分は今サテライトオフィスになっていて、広島市内からもアクセスしやすい。ネット環境も整ってますし、ぜひ多くの方に使ってもらいたいですね。
米倉:
じゃあ、うちのSISの卒業生、送りましょうか。
本田:
ぜひ、お願いします。SIS広島校で合宿なんてのもいいですね。
これは僕のSISの卒業課題で始まったプロジェクトなので、学長にも大いに責任がありますよ!
米倉:
いや、本当に面白い取り組みです。広島の方で「ちょっと面白そう」と思ったら、まずは一度見に来てほしいですね。バーベキューも外でできるし。
本田:
敷地が広いので、バーベキューもできますよ。今流行りの「手ぶらBBQ」とかもいいと思ってます。あとはドッグランとか、田舎ならではの使い方ができる。
米倉:
でももう一つあるとすれば…やっぱりサウナかな。
本田:
実はその話も出てるんですよ。廃校のプールを活用して、サウナ施設として誘致できたらと考えています。
そして、夏には蛍がきれいに見えるので、それもこの場所の魅力のひとつです。
米倉:
いやあ、ここまで実現されると、我々としても本当にうれしいです。本田社長が、SISの卒業課題をここまで形にしてくれたというのは、学校としても大きな誇りです。
でも、ここで終わらないのがまた大事ですね。今後もいろんな人の力を借りて、責任ある地域活性化、ぜひ続けていただきたいと思います。
本田:
学長にも責任があるという…!
米倉:
わかりました!
米倉:
そういえば、本田さんとはアフリカにも一緒に行きましたよね。ああいう経験を生かして、アフリカの企業なんかをここに誘致するのも夢がありますね。
本田:
あのツアー、本当に刺激的でしたね。
米倉:
SISでは、アフリカやカンボジアへの課外研修も行っているので、そうした現地での体験も含めて、学びを広げてほしいと思っています。
米倉:
本田さん、本日はお忙しい中、本当にありがとうございました!

【企業情報】
株式会社チヨダパック
Webサイト:https://c-pack.jp
「社会が必要とするオンリーワン企業を目指す」を理念のもと、1992年の創業以来、包装資材を中心に事業を展開。プラスチック容器の専門メーカーとして、環境配慮型製品の開発・製造・提供にも取り組んでいます。
チヨダパックのサステナビリティについて:https://c-pack.jp/quality/sustainability/