ソーシャル・イノベーション・スクールは、多くの企業から高い評価をいただき、サステナビリティと人材育成の分野で共に未来を切り拓くパートナーとしてご活用いただいています。本対談シリーズでは、社員派遣を通じて生まれた実践的な取り組みや気づきを企業の代表者から直接伺い、企業経営者や人材育成担当者の皆さまにとって参考になるポイントをお届けします。今回は、米倉 誠一郎学長があなぶきグループ代表であり、穴吹興産株式会社(本社:香川県高松市)代表取締役社長の穴吹 忠嗣様にお話を伺いました。

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四国発、全国展開へ──あなぶきグループの挑戦と多角事業の全貌

米倉学長(以下、米倉):
本日は、本校の開校当初から長きにわたりご支援いただいている、あなぶきグループ代表であり、穴吹興産株式会社代表取締役社長の穴吹 忠嗣様にお越しいただきました。改めまして、これまでのご支援、本当にありがとうございます。
これまで多くの受講生を送り出してくださり、心から感謝しております。

本校は東京にあるのですが、最近ちょっと驚いたことがありまして。地下鉄に乗っていると、ふと「穴吹◯◯」という広告を見かけるんです。四国の財閥だと伺っていたのですが、最近では東京でも見かけるようになり、「名前は知っているけれど、実際にどんな会社なのかはよく知らない」という方もいらっしゃるのではないかと思います。
そこでまず、あなぶきグループとはどのような会社なのか、改めてご紹介いただけますか?

穴吹社長(以下、穴吹):
はい、地方の会社ですので、よく言えば「何でも屋」ですね。
私たちは、人口が20〜30万、あるいは40〜50万といった地方都市を中心に展開しています。そういった地域では、すぐにマーケットが飽和してしまうため、幅広い業種を手がける必要があるんです。都市圏のように、例えば1都3県で3,000万人というわけにはいきませんからね。
そうした背景もあり、私たちは「トータルハウジングサービス」を掲げて事業を展開しています。住宅に関しては、中古物件の取り扱いから、新築・分譲住宅の開発まで幅広く手がけています。
また、近年力を入れているのが霊園事業です。そして、ようやく東京でも「老人ホーム」の開設が決まりました。

米倉:
完全に成長産業じゃないですか。もともとは高松で不動産業からスタートされたんですよね?

穴吹:
はい、高松で不動産業として始めました。

米倉:
随分前のことですよね。今は何代目になりますか?

穴吹:
私は2代目ですね。おかげさまで、会社も61周年を迎えました。
もともと、兄がやっていた「穴吹工務店」という会社があって、そちらは大工として始まったので、歴史はもう100年くらいになります。今は大京さんの子会社になっていますが。
私たち「あなぶき興産」は現在、上場企業として運営していまして、もう一つ「あなぶきハウジングサービス」という会社があります。こちらはマンションなどの管理を行う会社で、非上場です。
あなぶき興産の売上が1,300億円ちょっと、ハウジングサービスが700〜800億円くらいで、グループ全体では2,000億円程度の規模になっています。

米倉:
すごいですね。上場もされて、しかも香川をベースに、徐々にエリアを拡大されてきたわけですね。まさにトータルなサービス展開ですね。

穴吹:
そうですね。四国・中国・九州では、いずれも高いシェアを持って展開してきました。
今は関東から東北エリアにかけて、まさに全力で取り組んでいるところです。

米倉:
デベロッパーとしての一面を持ちながら、マンション管理も相当な規模だとお聞きしています。

穴吹:
はい、管理の分野も力を入れていて、分譲マンションの管理戸数は約22万戸。
それに加えて、企業の社宅や賃貸物件なども含めると、現在はおよそ30万戸を管理しています。

米倉:
30万戸も管理されているんですか!それは驚きです。

穴吹:
はい。中でも社宅は5万戸ほどで、さまざまな企業さんの物件を管理させていただいています。

米倉:
さらに驚いたのは、学校法人まで運営されているという点です。
我々にとってはライバルでもあるのですが…!学校法人はどのようにして始められたんですか?

穴吹:
これも始まりは四国・高松なんですが、40年以上前のことになります。当時、コンピューター関連を学ぶ学生はみんな京都や大阪へ出ていってしまっていて。
「これでは四国に人材が残らない、プログラマーも育たない」と危機感を覚えたんです。そこで、「地元に教育の場をつくろう」と始めたのが最初でした。
それが徐々に大きくなって、今では18校になりました。短大や高校も含めています。
徳島県、広島県、香川県に学校があって、香川には大学もあるので、いわゆる“2条校”(学校教育法第2条に該当する、国や自治体、学校法人などが設置した正式な学校)ですね。県の認可と文部科学省の認可、両方を受けて運営している学校法人になります。

米倉:
もともとはコンピューターやプログラミングの分野からだったんですか?

穴吹:
はい、当初はそうでしたが、今ではずいぶん多様化しています。特に医療系の学科が大きな柱になっていて、看護師、理学療法士、作業療法士、歯科衛生士、介護福祉士など、幅広い分野で人材を育成しています。

米倉:
私も実は高松の学校に伺ったことがあるんですが、施設の充実ぶりには驚きました。
しかも本当にすごいのは、国内の人材育成にとどまらず、外国人の看護師候補の受け入れまで進めているという点です。日本語学校も設けていらっしゃいますよね?

穴吹:
はい。日本語学校は徳島・高松・福山の3拠点にあります。
現在は600〜700人の学生が在籍していて、いずれは1,000人規模を目指しているところです。

米倉:
あなぶきグループ、素晴らしいですね……!

地域課題をチャンスに変える:地方発イノベーションの取り組み

米倉:
そんな中で、我が校にも、社会課題をイノベーションで解決しようとする取り組みに共感していただき、たくさんの受講生を送り出してくださっています。
どういったきっかけでご興味を持っていただいたのでしょうか?

穴吹:
私たちも「地方の課題を事業にしていこう」という思いを持って、ずっと取り組んできました。
たとえば、2年に一度開催している、新規事業や組織改革のアイデアを競い合う「夢たまグランプリ」や、先生にもご協力いただいている経営者育成研修の「次世代塾」、「青年塾」などもその一環です。

米倉:
本当に、教育に対する熱意を感じます。

穴吹:
ありがとうございます。そこはもう、ずっと大事にしてきたところです。
高松と川崎に研修センターを設けて、社員教育にも力を入れてきました。育成も含めて「教育」が基盤だと考えています。

米倉:
そうした取り組みの中で、我が校への受講も、何かしらお役に立てていますか?

穴吹:
ええ、非常に役立っています。
というのも、やっぱり「イノベーション」、特に「ソーシャルイノベーション」は、私たちの新規事業の課題と地続きなんですよね。現場とつながっている感覚があります。
それに私たちは、何より「お金よりも事業を大切にしよう」と考えているんです。
事業がしっかりしていれば、自然とお金はあとからついてくる。
そして事業を担うのはやっぱり「人」なんですよね。だからこそ、人材育成を一番大事にしています。
最近は、単なるスキルだけでなく、「価値観教育」にも力を入れようと取り組んでいるところです。

米倉:
代表ご自身の言葉をまとめた本も拝見し、企業理念の発信にも力を注がれていますよね。
そうした姿勢を見ていると、地域に根ざして、これだけ多様な事業を展開するには、社会課題の解決なしには成り立たないんだということが、よくわかります。

穴吹:
ええ、まさにそのとおりです。

米倉:
ですから、介護の問題にしても、語学やコンピューターの問題にしても、根本には「地域をどう活性化させるか」「どう人を地域に残していくか」というテーマがあるわけですよね。
その取り組みは本当に素晴らしいと思います。

暮らしのライフサイクルに寄り添い、地方の住宅課題と墓じまい問題に取り組む

米倉:
そして、御社から受講生を送り出していただく中で、皆さんが頻繁に課題として挙げるのが「空き家問題」です。これまでは、建てた建物をきちんと管理していればよかったわけですが、人口が急激に減少する中で、特に過疎地域では深刻な状況になっていますよね。

穴吹:
そうですね。空き家は今、地方で一気に増えています。
とくに農村部、郡部はひどい状況ですね。
私たちはまだマンション開発も行っているので、たとえば「病院が近い」などの条件を整えて、子育てが終わったファミリー層が都市部に移り住めるようにしています。そうした流れの中で「コンパクトシティ化」がうまく機能していて、私たちにとってはビジネスチャンスにもなっています。でも、空き家は本当にこれから大きな社会問題になると思います。

そして、今取り組んでいるのが「霊園事業」です。
地方では「墓じまい」が急増しています。というのも、ほとんどのご家族が東京や大阪といった都市に出てしまい、お墓が放置されているケースが非常に多いんです。
固定資産税はかかりませんが、昔は近所のお年寄りたちが手入れをしてくれていたような地域のお墓も、今ではその“お世話係”がいない。
寄付をして整備していたような時代も終わり、現在はお墓の約4割が放置状態になっているとも言われています。私たちはそれを受けて、高松で霊園事業を始めました。永代供養ができるようにして、13年経ったら合祀に移す(個別に埋葬・管理されていたご遺骨を、他の方の遺骨と一緒に合同の供養塔や墓所に移して供養する)という形で、今のニーズに合うようにしています。
高松での取り組みがうまくいったので、昨日は静岡に行ってきました。そこでは、県内でも最大規模の霊園業者をM&Aで取得しました。6〜7カ所の霊園を持っている会社です。
今は鹿児島でも新たに開発を進めているところです。

米倉:
M&Aも積極的に展開されているんですね。

穴吹:
お墓は宗教法人の持ち物になっているんですが、私たちが資金を出して開発し、管理を行うという形で事業化しています。空き家と同じく、「墓じまい」も避けられない社会課題ですね。
最近は、ガーデン型霊園や樹木葬、あるいはパネル式の供養塔など、新しい形も出てきています。たとえば7年や13年でご遺骨を合祀堂に移すという仕組みで、放置されることのないように管理されています。

米倉:
それは本当に大切ですね。まさに社会課題の解決です。

穴吹:
そうですね。「墓じまい」を希望される方は本当に増えています。
管理費を払いたくないから、という理由の方もいれば、逆にお金を払ってでもちゃんと供養してもらいたいという方もいます。
それに、最近多いのは「生前墓」です。自分の代で子供に面倒をかけたくないと考える方が、自分でお墓を用意しておくんですね。申し込みに来る方の半分くらいはご本人なんですよ。昨日視察に行ったばかりの静岡の霊園でも、1万7000基中すでに1万基は販売済み。特に樹木葬は引く手あまたです。
これまでの「お寺にあるお墓」とは違った、新しい形態のニーズが確実に広がっていると感じています。

老人ホームも、鹿児島から始めてずっと各地で展開してきましたが、ようやく東京にも進出が決まりました。京都まではすでに展開してきたので、今はまさに「トータルハウジングサービス」の最終段階として霊園まで一貫して提供する形に取り組んでいます。

米倉:
代表は、やはり「人がどう生き、どう暮らし、どう最期を迎えるか」といったライフサイクルを見て、次のビジネスチャンスを感じ取っているということですか?

穴吹:
まさにそうです。人々の暮らし方がどんどん変わっていますから。
たとえば空き家問題ひとつとっても、今後はますます「中心部に住む」という流れになるでしょう。そうなれば新築よりも、中古や仲介が重要になってきます。
実際、東京都では分譲マンション供給戸数が9万戸から2万8000戸にまで落ち込んでいます。
ですから、私たちは今、中古ストックにシフトしています。

お墓も同じです。供養堂にして、7年や13年で合祀するなどして、次の方が使えるようにする。そういう循環型の仕組みが求められるようになってきました。

米倉:
人口減少と都市化が同時に進む社会では、どの国もいずれ同じ課題に直面します。
日本はそれをいち早く体験しているわけですが、その中であなぶきグループが進めている事業には、非常に示唆がありますね。
今、幅広く事業を展開されていますが、根底にあるのは「人のライフサイクルに寄り添う企業である」という姿勢は変わらないですか?

穴吹:
それは変わりません。
私たちは「トータルハウジングサービス」「ワンストップサービス」を掲げ、地方で何でもお世話できる体制を整えています。
賃貸から始まり、リフォームもできるし、老人ホーム、霊園まで、一貫してサポートできる企業でありたいと思っています。

米倉:
その姿勢は、我々の学校とも非常に相性が良いですね。社会課題をイノベーションで解決するという志を共有していると感じます。

ソーシャルイノベーションを事業の種に。外国人人材育成とグローバル展開の可能性

米倉:
嬉しいなと思うのは、こうした地方の企業が、外国人を受け入れながら新しいことに取り組んでいる姿勢です。
たとえば、御社では自動車整備士の専門学校もお持ちですよね。

穴吹:
そうなんです。やはり日本の中古自動車は、東南アジアやアフリカなどでも圧倒的な信頼を得ていて、需要が高い。うちの穴吹工科カレッジも、今や日本人の学生より、ネパールなどからの外国人留学生の方が多くなってきています。逆転現象ですね。
ただ課題は、自動車整備士の資格が取れるかどうか。問題はそこです。

米倉:
試験は日本語ですよね?

穴吹:
はい、日本語です。そこが最大の壁ですね。

米倉:
看護師の国家試験も見たことありますが、あれ、日本人でも読解が難しい漢字が出てきますもんね。

穴吹:
内容そのものより、日本語の壁の方が大きいんです。日本語能力試験(JLPT)のN3からN2レベルぐらいに上がっていないと、合格は厳しい。
うちの合言葉にしているのが、「好きを極めてプロになろう」。だから、彼らは整備の勉強は一生懸命なんです。あとは日本語だけ。うちでは卒業してからも1年間はずっとフォローしています。資格を取れるまでしっかり面倒を見ています。
今はどこも整備士不足ですから、卒業生は引く手あまた。中には企業から奨学金を出してもらえる学生もいます。

米倉:
あなぶきグループの受講生の皆さんも一緒にアフリカへ連れて行ったことがありますが、あちらではおそらく車の約95%が日本車で、しかもほとんどが中古車です。
これからアフリカ市場もさらに大きくなるでしょうし、ぜひアフリカの若者たちも受け入れていただきたいですね。中古車市場が発展する一方で、整備が行き届かないと、温暖化対策や公害の面でリスクも高まりますし。

穴吹:
やっぱり日本車の信頼性はすごいですよね。壊れにくいし、長く乗れる。人気は断トツです。

米倉:
というわけで、様々な事業を展開しておられるあなぶきグループ代表・穴吹様にお話を伺いました。
今後とも、ぜひ我が校へのご支援をよろしくお願いいたします。

穴吹:
こちらこそ。私たちにとって「ソーシャルイノベーション」は、まさに事業の種ですから。

米倉:
本日はありがとうございました。


【企業情報】
あなぶきグループ
Webサイト:https://anabuki-group.jp/
『地域社会に生かされ生きる。』をグループビジョンに掲げ、 「住まい創りや不動産価値創造事業を通じて、地域社会の文化と歴史の創造に貢献する」ことを使命とし、日々成長を続けています。 また、環境負荷の低減や持続可能なまちづくりにも注力し、幅広い事業を展開しています。
あなぶきグループのサステナビリティについて:https://www.anabuki.ne.jp/sustainability/