自社で開発途中だった商材を、SISでの学びと出会いを通じて製品化。食品容器メーカーとして環境保全活動の啓発に繋げたSIS第3期生・田中友啓さんの事例をご紹介します。

食品容器メーカーとしての使命

SIS第3期生の田中友啓さんは、紙やプラスチック製の食品容器を企画・製造・販売する(株)シンギの代表取締役です。
※(株)シンギ https://www.shingi.co.jp/

「便利で美しくアイディアに富んだ容器を作ることが企業使命である一方、これからは食品容器メーカーとして環境への配慮が必要」と考えた田中さんは、自社でバガスモールド容器の開発に取り組んできました。
バガスとは、砂糖を作る時に搾られたサトウキビの残りかすです。一部は燃料に使われますが、大部分は廃棄されていました。この“廃棄物”を有効活用して作られるのが、バガスモールド容器です。適度な強度があるため容器に適しているだけでなく、サトウキビが成長する間にCO2を吸収するため、環境負荷の低減にも貢献する容器です。

広島県が主催する「GREEN SEA 瀬戸内ひろしま・プラットフォーム(略称GSHIP)」に参画し、海洋プラスチックごみの現状を目の当たりにする中で、「そもそもプラスチックごみを発生させない取組みが必要」と強く感じたことも契機のひとつとなりました。
※GREEN SEA 瀬戸内ひろしま・プラットフォーム(略称GSHIP) https://gship.jp/

しかし顧客に喜ばれる商材でなければ意味がない。そこで「食文化の発展」を開発におけるもうひとつのポイントに据えました。広島ならではの食文化といえばお好み焼。ここからお好み焼用バガスモールド容器の開発が始まりました。

蒸されたキャベツの甘さが魅力のお好み焼は、水分が多いことが特徴です。お好み焼店ではテイクアウトの場合、焼きたての熱い状態で容器に詰めるため、プラスチック容器では水滴が溜まりやすく、食べるときにはベチャベチャになってしまっていることが難点でした。バガスモールド容器でも当初はこの問題は避けられず、試作を繰り返したといいます。アドバイザーとしてオタフクソース(株)の協力を仰ぎ、試行錯誤する日々が続きますが、新型コロナウイルスの世界的流行により開発が止まってしまいます。

SISとの出会い、SISでの出会い

折りしも、SDGsというキーワードが日本でも盛り上がりを見せていました。このころ、田中さんも「SDGsを事業にどのように反映していけばいいのか、そしてそれをどうやって勉強したらいいのか」と考えており、偶然にもSISを知り入学しました。新型コロナウイルスの影響で業務が思うように出来ない今だからこそ、学ぶ必要があると感じたからです。
「オンラインで受講できること、豪華な講師の講演を手頃な受講料で聞けることが魅力でした。入学してみると、想像以上に勉強になりました。すごく大変でしたけど(笑)」(田中さん)
その理由として挙げられるのが、受講期間中に取り組むグループワークです。業種や年齢など経験値・価値観が全く異なる受講生同士でグループとなり、大企業の経営者や第一線で活躍する社会起業家に対して行うプレゼンや、卒業にあたって社会課題を解決するプランをまとめる経験は、ハードではありながら、振返れば多くの収穫があったと語ります。

そしてそのグループワークで出会ったのが(株)ユニバーサルポストの今田雅さん(カスタマーサクセス室係長)でした。
「普段は会社という制約の中で仕事をしていますが、SISでは制約はありません。グループワークでは、取り組む課題に対する専門知識がなくても、これまでの経験や知識が活きる場面があって、パズルのピースがはまっていくような感覚でした。仕事でなくても、自分が入り込める。自分の可能性を新たに感じる体験でした。」(今田さん)
とはいえ、入学当初は戸惑いもあったといいます。
「受講生には経営者や会社内で上位階層の方も多くいらっしゃいます。講義ではそのような皆さんとディスカッションする機会も多々あり、圧倒されることもありました。でも、受け身でいては最後までやり抜けない!と感じ、途中からは『考えたままでいいから、とにかく発言しよう』と開き直って臨みました。」(今田さん)
また、講義で度々示された「イノベーションは特別な人が興すわけではない」「失敗を恐れずにチャレンジする」という言葉が強く記憶に残っているそうです。

そして始まった「#ひろまるバガス」

SISを卒業後、お好み焼用バガスモールド容器の開発を再開した田中さん。SISでの経験が大きな動きをもたらしました。
「1社だけ・1人だけでなく、仲間を集めて進めようという気持ちが強くなりました。リスクヘッジというだけでなく、仲間がいてくれた方がスピードも上がるし色々なアイディアが出る。『1+1=2』以上の効果が生まれるんです。オープンイノベーションへのハードルが下がりました。」(田中さん)
そして、良い容器を作るだけでなく、啓発活動を行わなければバガスモールド容器の利用促進にはならないと考えた田中さんの脳裏に、今田さんが思い浮かびました。プロモーション活動のプロフェッショナルであり、SISで積極的に、そして前向きに取り組む姿勢を見せていた今田さんであれば、ビジネスパートナーとしても必ず強力なサポーターになってくれると思ったからです。

さらにこのプロジェクトは昨年の春、広島県の補助事業に採択されました。お好み焼用バガスモールド容器を「#ひろまるバガス」とし、「おいしく包んで未来へつなごうプロジェクト」が始動しました。
※おいしく包んで未来へつなごうプロジェクト https://hiromaru-bagasse.jp/

「#ひろまるバガス」の名前には、広島の「ひろ」、Goodの(マル)「まる」などの意味と、ますます「広まる」ことへの想いが込められています。ロゴマークには、容器=陽気という遊び心と、水面に波紋が広がるようなイメージ、バガスのもととなるサトウキビの節も加えられました。

このタイミングで、(株)テレビ新広島の渡辺琢水さん(メディア戦略部リーダー)も新たに参画。渡辺さんはGSHIPの活動に参加しており、(株)シンギの社員ともグループを共にした縁がありました。
「当社でもSDGsへの取組みを強化しようとしているところでした。田中さんがおっしゃるように、これまで我々も自社だけで進めることが多かったのですが、現在は社外との連携や協業によって進める機運が高まってきています。」(渡辺さん)
こうして(株)シンギを中心に、(株)ユニバーサルポスト・(株)テレビ新広島の3社によるコンソーシアムが完成しました。

オタフクソース(株)が3年ぶりに開催した「活力フェア」に「#ひろまるバガス」を出展した際には(株)テレビ新広島が取材し、ニュースを配信。(株)テレビ新広島はフジテレビ系列である繋がりから、夏のイベント「オダイバ冒険アイランド」でチーズハットク用にバガスモールド容器が使われました。
「発売から利益が上がるまで1年半と言われる容器製造業界において、異例の速さで広がりを見せているのは、やはりプロモーションのおかげ。自社だけでは、これほどのプロモーションはできなかったと思います。」(田中さん)

※右から(株)シンギの田中さん、河村さん、(株)ユニバーサルポストの今田さん、(株)テレビ新広島の渡辺さん

多種多様な食品容器がある中で、バガスモールド容器は今後、どのような展開をみせるのでしょうか?
「普及には今後も努めますが、すべてを無理矢理バガスモールド容器に置換するつもりはありません。食文化の発展につなげるためにも、環境配慮型のメニューを増やして、食品の特性を活かせる、また、消費者の皆さんが選びやすく手に取りやすい商品を増やしていきたいです。」(田中さん)

これからSISを受講する人へ

SISで学んだことや出会いを活かし、事業の更なる発展に繋げている田中さん。これまでの経験をふまえ、どんな人がSISを受講すると良いかをお聞きしました。
「まずは、SDGsを正しく理解したい人、社会課題の解決をどのように本業とリンクさせればいいのか分からない人は、ぜひ受講することをおすすめします。
例えば、環境保全活動に取り組むことは重要ですが、収益化でき、事業として成立しなければ人がついてきませんし、継続もできません。継続してこそ初めて社会にインパクトを与えることができます。この点はSISの講義でも繰り返し強調されていましたが、本当にその通りだと思います。
また、SISでは、やると決めた1つのことに力を発揮できる、高い熱量を持った人に出会うことができます。共にゴールに向けて走る仲間を見つけたい、という人にも、有益な場になると思います。
当社からは毎期2名程度、社員を受講させています。SISに積極的に参加することで、新規事業や社会を良くする提案をまとめたり、多様なメンバーの中でリーダーシップを取ることができる人材に成長することを期待しています。」(田中さん)